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ミステリの祭典

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ゴルゴ13 /GOLGO13’S MYSTERY OMNIBUS
ゴルゴ13

作家 さいとう・たかを
出版日2010年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 おっさん
(2022/03/05 12:56登録)
本の背に、「この「ゴルゴ13」がすごい!! ミステリー、推理小説ファン必見のオムニバス!!」というコピーが刷り込まれた、800ページにも及ぶ、コンビニ・コミックの大冊。
筆者が読んだのは、2022年1月6日発行の、第3刷です。奥付を見ると、初版は2010年8月11日で、コンビニ売りのMy First Big版「ゴルゴ」が通算100巻を迎えたときの記念号が、昨2021年の作者の逝去を悼み、重版されたもののようです。
表紙には、「今までの100巻の中からミステリー・ファン垂涎の推理小説テイスト物語を集めたプレミアム・ザ・ゴルゴ」との惹句もあり、これまで、さいとう・たかをのあまり良い読者ではなく(「劇画」の生みの親であり、創作のシステマチックな分業体制を確立し多作を可能にしてきた、その徹底したエンタテインメント職人ぶりは見事と思いながら……)、代表作の「ゴルゴ」すら、食堂や床屋で、それこそ散発的に目を通す程度だった筆者の目が、思わず留まりました。

収録作は、以下の通り。②⑧のみ既読、あとは初見です。

 ①神に贈られし物(第115話、脚本:早里哲夫、1977)
 ②芹沢家殺人事件(第100話、脚本:浜家幸雄、1975)
 ③蒼狼漂う果て(第141話、脚本:きむらはじめ、1979)
 ④死に絶えた盛装(第26話、脚本:K・元美津、1970)
 ⑤60日間の空白への再会(第99話、脚本:浜家幸雄、1975)
 ⑥破局点(第94話、脚本家不詳、1975)
 ⑦ピリオドの向こう(第126話、脚本:K・元美津、1977)
 ⑧2万5千年の荒野(第213話、脚本:きむらはじめ、1984)

さすがに読みごたえがあります。お腹いっぱいになりました。
ただ、コンビニ・コミックに多くを求めるわけではありませんが、これって「ミステリー」かいな、と思わせるお話も散見するので、誰が収録作を選んだか、なぜその作品が選ばれたか、そのへんについて軽く触れた、デザート的な文章が欲しくなりました。ネット情報によると、2010年の初版には、杉江松恋氏による「解説」が付いていたようなのですが、今回の増刷ではカットされています (T_T)

厳戒態勢が敷かれた、大統領指名大会の行われるスタジアムで、候補者の狙撃を敢行するゴルゴ。テロリストとして彼をマークしていたFBI捜査官は、公務執行妨害と傷害の別件で、ひとまず彼を確保することに成功するが……という「神に贈られし物」は、いかにして凶器の銃は持ち込まれ、犯行後、隠蔽されたか? を軸にしたハウダニット。寡黙なゴルゴのキャラ造形(作中、発するセリフはなんと、「弁護士を呼んでくれ」のみ)により、彼が何を考え、一連の行動をとっているのかが、最初は分からないのですが、あとになって真意が分かり思わず膝を打つ、という展開で、最後の一コマの捜査関係者のセリフで、はじめてタイトルの意味も判明します。巻頭作にふさわしい、秀作でした。
シリーズのなかには、ゴルゴの出生の秘密にまつわるエピソードが幾つかあって(どれが正解かは確定されないまま、別な可能性が示されていき)、通称「ルーツ編」とされていますが、戦後まもなくの迷宮入り事件に端を発する「芹沢家殺人事件」は、その代表的なひとつ。ゴルゴでミステリ、といったら、まあ、これは鉄板でしょう。「そ、そんなばかな!! あまりに突拍子もない推理だ!!」、「ば、ばかげている!! あまりに非現実的だ!!」という、作中人物のツッコミはまったくその通りで、特に密室状況下のホテルの一室でいかにして証人は消え去ったかという副次的な謎の解答は、無茶もいいところですが……作画の熱量と演出で、捻じ伏せられます。さいとう・たかをが、ただシナリオを機械的に絵にしていたわけではないことを、如実に示す作でもあります。ひさしぶりに読み返したら、事件に人生を狂わされていく捜査関係者のドラマが、なんだか島田荘司テイストだな、と(本当は逆で、島荘のほうが似ているわけなんですが)。
このあとに、中ソ国境で保護された、核実験の被害者の遊牧民が、じつは二・二六事件の生き残りであることを知ったジャーナリストが、スクープを求めて現地へ渡り、そこでゴルゴを目撃することになるという、同じ「ルーツ編」の「蒼狼漂う果て」を並べているのは、しかし、いかがなものか。こういう番外編的な(しかも濃密な)のは、たまに読むからいいのにねえ。スナイパーのゴルゴが警護役を引き受けるという新味はありますが、襲ってくる敵を坦々と片付けていくだけで、そこに何の策も無いのが、おっさんとしては、物足りません。
おそらく人気の点では遥かに劣るでしょうが、ミステリ的には、正体不明のターゲットが誰に扮しているかをゴルゴが推理する、「死に絶えた盛装」のほうが、初期作ゆえのブレ(饒舌なゴルゴ!)はあっても、好ましい。ただしこのタイトルは、下手だわw
若き日のゴルゴのエピソードが回想される、刑務所ものの「60日間の空白への再会」も、タイトルが舌足らずですね。脱獄トリックが盛り込まれたりしていますが、前提となる、「この依頼はプロがプロに対しての依頼である」という、ゴルゴに託されたメッセージの謎解きには、首をひねるばかりです。ゴルゴで刑務所 / 脱獄ものということであれば、筆者が読んだ範囲では「檻の中の眠り」(第5話、脚本:小池一雄、1969)がベターなので、入れ換えたいww
犯罪心理学者が、理論的な行動予測でゴルゴを追いつめていく「破局点」は、お話自体は充分に面白いです。相手の理論を無効化する手段が、結局、「さとり」の妖怪が出てくる民話のような原始的なもので、機知の要素に乏しい、なんていうのは、頭の固いミステリ・ファンの難癖ですねwww
今回、初読の6編のなかで、巻頭の「神に贈られし物」と双璧を成すと思っているのが、お次の「ピリオドの向こう」です。このお話、まずもって、ゴルゴへの依頼内容が、ヘン。ある女性が左耳に付けているイヤリングを、撃ち落として欲しい、というんですからね。もっともE・D・ホックの怪盗ニックものと違って、そこにホワイダニットの要素はなく、依頼人の動機は明確に説明されます。しかし、それを受けたゴルゴが狙撃を敢行する、まさに直前――何者かが放った弾丸で女性は射殺され、ゴルゴは、警察の非常線を突破し逃亡しながら、自分を巻き込んだ事件の解明に乗り出していきます。副次的なロマンスの要素も良く、クライマックスの収束性といい、余韻を残すエンディングといい、まず申し分ありません。
で、オーラスを飾るのが――「2万5千年の荒野」。
最初に断っておきますが、これはどこからどうみても、ミステリではありません。作中の「事件」、ではなかった「事故」へのゴルゴの関わらせかたも強引すぎて、お話の完成度は決して高くないと思います。
でも。
あえて言います。これは必読。1984年の発表時よりも、このエピソードの持つテーマは、いささかも意味を失わず、むしろ後年になるほど、重要性・迫真性を増しています。
1986年、チェルノブイリ。
2011年、福島。
そして――

いや~、柄にもなく真面目ぶってしまった。スミマセン。
アンソロジーとしての統一性に欠ける嫌いは否めないので、採点はちょっと抑えめにしましたが、本書は、長大な『ゴルゴ13』シリーズ(作者の逝去後も、新作が供給され続けている!!)に手をつけかねている読者への、入門書としては、決して悪くないと思います。
繰り返しになりますが、「解説」を削除しないで出して欲しかったな。

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