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ミステリの祭典

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幻月楼奇譚
漫画

作家 今市子
出版日2004年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2022/02/27 12:32登録)
今市子の看板シリーズの「百鬼夜行抄」は、ミステリ的記述技巧を活用した語り口の怪異譚、というものだけども、このシリーズは真逆で「怪異ありの世界で成立するミステリ」という色が濃いことを、6巻が出たのを機に読み直して実感したので、本サイトでも取り上げることにする。

いや実例。最新6巻の最後の話「其ノ二十四」。舞台となる吉原のお茶屋「幻月楼」に逃げ込んだ少女が消失する(ある意味)密室の謎。周囲はその少女が売られた置屋の男衆に厳重に見張られ続け、2回の家探しでも見つからない....「白装束の花嫁行列が遊女屋から出て行って消え、それを目撃した者に祟りがある」という怪談話を思わせるような目撃談と女中の急死がどうかかわる?

こんな謎設定。「夜は開けてはならない」とタブー扱いされる勝手口を絡めて、怪異と人間消失の両方が鮮やかに解決されるし、見つかった少女を幻月楼から脱出させる主人公たちの計略も怪談話をうまく絡めたもので、「無駄なく」まとまった短編ミステリになっている。

昭和初期の吉原のお茶屋「幻月楼」を主な舞台とする。主人公は老舗の味噌屋の若旦那、鶴来升一郎と、全身に刀傷のある幇間の与三郎。升一郎は「素っ頓狂」な馬鹿旦那のフリをして吉原で放蕩三昧、でもなかなか鋭いところを見せ、「怪談しか芸がない」とされる幇間の与三郎との間で掟破りの「旦那」に納まっているあたりがBL(けど極端に薄味)。与三郎は瀕死の体験をしたことで怪異が「見える」能力を得て、幻月楼を巡って起きる怪事件の数々に絡む因縁に感づくのだけども、この二人のコンビが怪事件の背後にある意外な人間関係を暴き出すことになって、事件が解決していく...

過去の埋もれた因縁が与三郎には「見える」だけなのだ。だから怪異ありの世界でも、怪事件はほぼすべて「人力」で起きていて、怪異はそういう因縁の索引みたいなものに過ぎない。怪異の原因である因縁が、関係者の「今」にも影を落としていて、それが事件として顕現し、あるいは因果応報を怪異が手助けする程度の話である。ミステリとホラーの微妙な棲み分けみたいになっていて、なかなかいい均衡を保った世界のようにも思われる。

最近の「百鬼夜行抄」は話が薄味になってきていて残念だが、「幻月楼」の方は年1作のために話の作り込みの緊密さが今でもしっかり、ある。単行本が4~5年に1冊という超スローペースなのが残念だけども、クオリティは待った甲斐もあるというものだ。

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