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ミステリの祭典

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地底怪生物マントラ

作家 福島正実
出版日1975年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/02/26 18:21登録)
(ネタバレなし)
「日洋漁業」の漁業パトロール用水上機「おおとり号」の青年パイロット、峰大二は東太平洋上で、無人の幽霊船団と化した自社の漁船団を見つける。9隻の漁船から109人の船員が忽然と消えた怪事は、正にマリー・セレスト号事件の再発だった。やがてアメリカの原潜「シー・ウルフ号」が海底で300~400メートルの巨体ながら時速40ノットの高速で迫る怪物に遭遇。そのまま行方を絶つ。そしてこれらの事件と前後して、日本のN大学海洋研究室のバチスカーフ「わだつみ2号」は、日本海溝のそばラマポ海淵(かいえん)で、全長3000~4000メートルに及ぶ巨大な動く海藻のような生物の姿を捉えていた。

 第一怪獣ブームの後期、「週刊少年サンデー」1966年7月17日28号から同年11月6日44号にかけて『大怪物マントラ』の題名で連載されたジュブナイル怪獣SF。
 本サイトに福島正実の名前の登録があって、これがなければ世代人としてはダメだろう(そうか?)。

 まとまった作品としては、評者は数十年前にソノラマ文庫版で初読。
 もう一回、再読して本サイトにレビューを書きたいなと、以前からなんとなく思っていたが、その文庫版が見つからない。そこで図書館の力を借りて、その文庫版に先立つ元版の朝日ソノラマ、サンヤングシリーズの方で久々に再読した。こっちの叢書で読むのは、たぶん初めてだと思う。

 サンヤングシリーズ版『地底怪生物マントラ』は、現状ではAmazonにはノーブランド品の個人出品のみ登録。書誌なども明記されてないが「地球SOSヤング」(どんなヤングだ・笑)との肩書がついており、昭和44年10月1日に初版刊行。挿し絵は第一次怪獣ブームの雄・南村喬之で、本文は279ページ。箱付きで価格は390円。

 まえがき(文庫版にはなかったかもしれない?)には作者の言葉で

「怪獣ものは、なんといってもSFの本格派です。ある日、あるとき、とつぜん、常識では考えられないモンスターが現れて、平和な世界と人びとの生活をうちこわそうとする。そのショックと「どうして生きのびるか」という工夫とは、SFの第一の魅力です。
 しかし、怪獣ものがさかんになったとき、ぼくは首をかしげっぱなしでした。その怪獣が、みんな恐竜のまがいもので、ちっとも本当らしくなかったからです。そして、ぼくは、もっと、この世界と、大自然とむすびついた、本当らしさをもった怪獣SFがほしいと思っていました。この小説は、そんな願いをこめて書いたものですが……。」

とある。作品の本文を読む前の時点で、4~5箇所くらい、意地悪にツッコミたい部分もなくもないが、作者の抱負と意欲はよくわかる文章である。

 実際、子供の頃に初めて断片的にスナオに物語に接したときは、東宝の巨大怪獣映画の読み物版みたいなものを期待していたので、ゴジラやラドン、ガイラなどとは違う、地球規模のスケールで出現する植物怪獣マントラの怪獣キャラクターに違和感。さらにマントラの寄生虫の巨大カブトムシの群れや、その体液の影響で人間が獣人化するミュータント部隊の描写にかなりコレハチガウノデハナイカ、と断絶感まで覚えた。
 それはそれでショッキングで面白かったけれど、子供時代の自分が希求していたのはもっと正統的な、良い意味で曲のない、まんまの東宝怪獣映画の世界だったのだ。

 とはいえのちに文庫版で改めてしっかり全体を読んだ際には、怪獣ものをダシに当時の児童をマトモなSFジャンルの方に勧誘してやりたげな作者の心情もなんとなく透けていたし、これはそういうものだと思って最後まで通読した。
 実際、中盤、地球の救世主らしきタウ星人の来訪から、あまりにも気宇雄大なラストの決着まで、作者が本当に書きたかったものはもちろんそっちではあろうとも、ここで理解する。

 で、今回の改めての通読では、その辺やあの辺の興味や側面も全部踏まえた、怪獣SFとして読んだので、フツーに面白かった。
 マントラの触手が地上で人間をスパスパ斬るならば、最初の漁船団も同じ災禍にあったのであろうに血痕もまったく残っていないのは変ではないかとか細部の描写の不整合もあるし、地上に無数に誕生してしまったであろうミュータント獣人も最終的にどのように処理されたのかなどもわからない。

 ただ、怪獣と人間のバトルもの、銀河宇宙規模のSFビジョン、そして世界終末ものとしては、意外にバランスが良い印象もあり、逆説ながら『シン・ゴジラ』や新作テレビドラマ『日本沈没 希望の人』(評者は個人的には結構評価している)を経た国産SF&怪獣ドラマ&映画の系譜の上で、改めて本作を原作に映像化してほしいとも思ったりした。まあ夢想だね。いろんな意味で。

 それでも昭和のジュブナイル怪獣SF(怪獣ものよりSFより)という認識の中で、いつまでも絶版にしておくのもちょっと惜しい気もある。
 どこかの奇特な出版社、南村先生のビジュアル図版込みで、そんなに高くない値段で(笑)復刻してみませんか?

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