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ミステリの祭典

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帰らざる故郷

作家 ジョン・ハート
出版日2021年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/02/26 14:57登録)
(ネタバレなし)
 1972年。アメリカ南東部のノース・カロライナ。地元警察殺人課のベテラン刑事ウィリアム(ビル)・フレンチの一家は、ヘロイン所持・使用の罪状で2年半服役していた同家の次男で23歳のジェイソンが出所したことを知る。ヴェトナム帰りのジェイソンは、戦地で23人を殺したのちに海兵隊から除籍処分を受け、退役後は故郷の町で荒んだ生活を送っていたようだ。ジェイソンと双子の兄ロバートは先にヴェトナムで戦死。出所したジェイソンに、父ウィリアムが微妙な、母ガブリエルが冷淡な態度をとるなか、「ぼく」こと18歳の三男ギブソン(ギビー)のみは、何とか兄との接点を探そうとする。だがそんななかで町で残虐な殺人事件が発生。ジェイソンはその容疑者となって逮捕されるが、ギビーは兄の無実を晴らそうと奔走する。だが……。

 2020年のアメリカ作品。
 評者が初めて読む、この作者の著作。
 秀作と噂の『アイアン・ハウス』が2012年度のSRの会のベスト選出で高順位を獲得したことは記憶にあり、そのうち何か読もうと思ってたジョン・ハート作品だが、単発の物語らしいということもあって、昨年の新刊の本書から読んでみてみた。
 設定が1972年の過去の時世ということに、ちょっと興味を惹かれる。

 で、ポケミスで本文がきっちり500ページの内容を、2日間で読了。名前のあるキャラクターだけで70人以上のそれなりの大冊だが、さすがは人気作家というべきかリーダビリティは高い。
 
 ミステリとしての大枠は、家族の絆を語った冤罪晴らしものと言ってしまって間違いではないが、同時に物語の大きな主題のひとつは、1972年という時代設定のなかでアメリカ国民全体がヴェトナム戦争にどう向き合い、どのような影響を受けたか、でもあった。後半はかなり重い、苛烈な、作中の現実が口を開けて待っている。
 その辺りの文芸が相応に衝撃的だが、一方で作者は戦争の異常さとそれに巻き込まれた人々の参事を良くも悪くもあえて図式的にドラマ、あるいはエンターテインメントの中に組み込んでいる面もあり、そういう意味でのまとまりも良い作品といえる。
  
 しかしこの作品のさらなる最大のポイントは、フレンチ家の三人の男たちと並ぶ、もう一人の(あるいは二人の)某メインキャラクターで、双方の存在感は圧巻。ある意味ではそっちの方が裏の主人公と言ってもいい。
 特に片方の該当キャラの設定の着想そのものは、もしかしたら他の作家にも思いつくかもしれないが、ここまでモンスターなキャラクターの造形と叙述はなかなか困難であろう。いや腹に応える登場人物だった。
 
 クロージングがややあっけない印象もあったが、これはたぶん読者を当時の時代の空気のなかにしばらく放って置き去りにしてやりたいという、作者の狙いかもしれない。

 とりあえず一冊読んだジョン・ハート作品だが、なるほどただ者ならぬ力量の一端は思い知らされた。

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