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ミステリの祭典

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鷲の巣
「死神」伊能紀之&中郷広秋

作家 西村寿行
出版日1985年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/02/19 08:18登録)
(ネタバレなし)
 日本全国を震撼させた「死神」テロリスト・僧都保行を打倒した、警視庁公安特科隊の警視正コンビ、中郷広秋と伊能紀之。彼らはかの宿敵から「死神」の異名を襲名し、その後は出向を命じられた世界各国で暴れまわったのち、日本政府とケンカ。今は無職の立場で、政府から分捕った成功報酬1億4千万円を元手に豪華クルーザーを買い込み、焼津で有閑の日を送っていた。だが地元でとある事件が起きて、コンビはそれを瞬時に解決。すると今度は大西洋で、6万トンクラスの英国の豪華客船キング・ネルソン号がシージャックにあい、2000人以上の乗客が人質になる。英国政府は巨額の報酬と引き換えに「死神」コンビに事件の解決を依頼するが。

 第一弾『往きてまた還らず』に始まる「死神」(伊能&中郷コンビ)シリーズの第四弾。

 評者は本シリーズはその『往きて』を読んでいただけだったので、ウン十年ぶりにこの主役コンビとの再会となる(正直、大昔にこのコンビと初めて出会った際には、シリーズものになるなんて想像もできなかった)。

 しかしまあ、何度も笑っちゃうくらいにストレスフリーの主人公コンビの無敵ぶりで、伊能&中郷を窮地に追い込んで盛り上げようなどという作劇上の工夫や配慮の類は微塵もない。その潔さは却って清々しいほどだ。
 ぐいぐい押してくるホラ話とエゲツない描写(しかし乾いた文章ゆえに、常にどっかに妙な品格のある)のボリュームで、最後までオモシロク読ませてしまう。

 とはいえこれが『安楽死』や『屍海峡』を書いた、いや『滅びの笛』ですら、それを書いたのと同じ作家の著作とは思えんな(笑)。
(ちなみに同じバディものでも『荒涼山河風ありて』あたりは、もうちょっと抒情と風情があったような……)。
 あ、『峠に棲む鬼』あたりなら、接点はそれなりに感じるかも。
 
 それでも中盤までは割と直球のボリューム勝負という感じだが、第四章になると円熟期の寿行っぽいイカれたユーモア味が全開で、なかなかそっちの意味で楽しくなってくる。
 焼津のヤクザの親分で、自分から死神コンビの舎弟になる人斬り伊造、正に「味わいのある男」であった。
 
 破天荒な活劇バイオレンス小説で、個人的には寿行の本道とは認めたくないけれど、それでも一気に読むのをやめられない程度にはオモシロイ。

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