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ミステリの祭典

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アルプス特急あずさ殺人事件
改題『特急「あずさ」殺人事件』

作家 峰隆一郎
出版日1988年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/02/16 06:47登録)
(ネタバレなし)
 その年の11月14日。金曜日。新宿発松本行き「あずさ13号」の車内で、女子大生・五貫倫子(いぬきみちこ)が毒物によって死亡する。捜査本部を設けた北松本署の刑事たちは、倫子の隣席の男に嫌疑をかけるが捜査は難航した。そんななか、倫子の11歳年上の兄で、元海上自衛隊員だが今は警備会社に籍を置く吾郎は、独自に妹の死の真相に迫るが。

 それなりの著作数(多くの時代小説とある程度の冊数のミステリ)を誇りながら、一般には「隆慶一郎と誤認される、名前のよく似た作家」という、そんなネタ的な認識がまず真っ先に来るのが、この作者の最大公約数的なイメージであろう(笑)。 
 そのせいか本サイトでも作家も作品の登録も、自分がするまでなかったのだが、実際のところ、そんなこの人の実作のほどはどんなのであろう? と興味が湧き、まずは一冊読んでみた。
(自分が手に取ったのは、1993年の集英社文庫の改題版ね。)

 でまあ、一読してみると、うん、コレはコレでなかなか悪くない。
 いや題名から察するに、なんかトラベルミステリっぽくて、いいとこ一流半~二流のアリバイ崩しか毒殺トリックもののパズラーの線で行きそうな雰囲気だが、実際の中身は体術に心得のある主人公の青年・五貫吾郎が、足と腕っぷしで事件の真相を暴いていく(非・私立探偵ものの)国産通俗ハードボイルドであった。
 結構、刺激的な設定や文芸も出てくるが、小説の叙述そのものはエロにはさほど流れず、暴力描写なんかにも意外に抑制が効いた内面描写がされているのが良い。
 じつは試みに、この作者の名前と「ミステリ」というキーワードを並べてTwitterで検索してみると、大藪春彦、勝目梓と作家ランクを並べている人もいた。で、その妥当性はどうあれ、この作者の文体はいい意味で手堅く、好感が持てる。まあ職人作家的に主人公の人間味を随所で覗かせる、そういう点とか意外に丁寧で、そんなところで評価ポイントを結構、稼いでいたりする。

 吾郎がまるで50年代の翻訳ハードボイルドミステリの主人公みたいなタフガイ。しかも全編を通じてほぼノーダメージ、しかし意外に悪党たちに冷酷さとドライさを見せ付ける一方で、完全にサディスティックにしない辺りも、いい意味での大衆小説ぽくってよろしい。
 バイオレンスヒーローなれども、ギリギリのところで嫌悪感を抱かせないキャラクターの造形と、気を使った描写は、エンターテインメントとしての大事なポイントだとも思うので。
 肝心のミステリとしての(中略)も、まあこれはこれで……ではある。
 
 一瞬? だけ、しょーもない三流エロバイオレンス小説かとも思いかけたけど、二転三転の筋立てもふくめて、全体的にはなかなか悪くはない。
 うん、たまにはこーゆーものもいいやね。 

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