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ミステリの祭典

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いかしたバンドのいる街で
ナイトメアズ&ドリームスケープス

作家 スティーヴン・キング
出版日2000年02月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 Tetchy
(2022/02/09 23:59登録)
短編集“NIGHTMARES & DREAMSCAPES”の2冊目の本書は6作が収録され、総ページ数は330ページ強。1冊目が7作収録で320ページ弱だったから2冊合わせて13作と650ページほどの分量だ。
しかもまだ半分なのだから、キングの短編集の分厚さには驚かされる。

2冊目の本書には貧困層の黒人夫婦の息子が作家になった秘密、洗面所から出てきた動く指に悩まされ、格闘する男の話、トイレの決まったブースに入っている白いスニーカーの持ち主に纏わる話、迷った挙句に辿り着いた街の恐怖、一家の長を喪った女性の一大決心と世界の終末の話、田舎町を訪れた若いカップルを襲った怪異現象の正体などがテーマになっている。

そしてそれぞれの物語のアイデアは単なる思い付きに過ぎないものも多い。

ろくに教育も受けていない両親から生まれた子供が作家になった。
もし排水口から人間の指が覗いていたら怖いなぁ。
いつもあのトイレのブースに同じ靴があるんだよな。
折角の旅行だから知らない道を通って“冒険”しようじゃないか!
我が身に起きた不幸のために世界の終りだと感じた時、本当の世界の終りが来たら?
空からヒキガエルが大量に降ってきたら気持ち悪いよな。

それらは我々の周囲にもよくある話だったり、またふとしたことで頭に浮かぶふざけ半分のジョークのような思い付きだったりする。
しかしキングがすごいのはその思い付きからその周辺を肉付けしてエピソードを継ぎ足して立派な読み物にすることだ。

そんなことが起こる人々、そんな奇妙なことに直面する人たちはどんな人だったら物語が生きるか、その人たちは職業に就き、どんな生い立ちを辿ってきたのか、独身か結婚しているのか、家族と暮らしている子供か、それとも一人暮らしなのか恋人と同棲しているのか、とどんどん肉付けしていく。そして普通の生活をしている我々同様に彼らは自分たちに襲い掛かる災厄に対して信じようとせず、一笑に附することで最悪な結末を迎えることになるのだ。

そんな中、「自宅出産」は本書における個人的ベストだ。
まずは典型的な父長制である家族が頼りにしていた父親が死に、その代わりとなる夫もまた死ぬことで身重である女手一人で生きていくファミリードラマ風の展開から一転して世界中で死者が蘇る怪奇現象に見舞われるという全く予想もつかない展開に思わず声を挙げ、そしてネタバレになるが、死んだ夫が蘇るに至り、それを我が身に宿る我が子のために撃退して生きていく決意をする主人公が頼りない娘から逞しい母親へと変わった姿になんだか胸を打たれる。
こんな奇妙な女細腕奮闘記、キングにしか書けないだろう。

これほどまでに物語を紡ぎながらも我々の心の奥底にある恐怖を独特のユーモアを交えて掻き立てるキングの筆致はいささかも衰えていない。
さてようやく半分の折り返し地点である。次はどんなイマジネーションを見せてくれるのだろうか。

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