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ミステリの祭典

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パルプ地獄變 ―紙漿の草叢に活路を求めて
フランク・グルーバー著

作家 伝記・評伝
出版日不明
平均点1.00点
書評数1人

No.1 1点 おっさん
(2022/02/05 11:05登録)
『コーネル・ウールリッチの生涯』の著者フランシス・M・ネヴィンズ Jr. 曰(いわ)く――「ウールリッチの独創的な世界がパルプ・マガジンを舞台に形づくられはじめるのは、一九三四年のことである。だが、彼の自伝はハリウッドに剽窃されたという幻の作品『アイ・ラブ・ユー、パリ』からその四半世紀後の母親の死までが完全に空白となっており、ミステリ作家としての再出発にまつわる苦労談はいっさい記されていない。しかし、一九三四年にパルプ・マガジン市場への参入をめざした者の姿を記した資料が、別の作家の手により残されている。この年は、ウエスタン、推理小説、映画やテレビの脚本など、多彩な分野で長いあいだ活躍した、ウールリッチと同世代の才能豊かな作家フランク・グルーバーが、イリノイ州の片田舎から作家としての成功を夢見てニューヨークへやってきた年でもあった。そして、ウールリッチとは異なり、グルーバーは大不況のどん底時代における通俗小説業界の様子を鮮明に記録しているのだ」。

その、1967年に刊行されたグルーバーの貴重な回想録が、同人出版の形で、綺想社というところから、昨2021年に訳出されました。限定100部、頒価6,000円也。
部数を考えれば、価格設定には目をつぶりましょう。よくぞ出してくれました、と感謝したいところですが……いや読んでみたら、これがちょっと、ヒドかった。戦前の邦訳探偵小説研究書で悪訳として有名な、H・D・トムスンの『探偵作家論』(広播洲 訳、春秋社)を思わせるシロモノでした。
まあ、「解説」と銘打たれた訳者あとがき(大網 鐵太郎)の、手抜きと独りよがりに終始した悪文に目を通すだけで、本文の出来のほうも察しがついてしまいます。その書き出しに曰く――「この本のオリジナルのタイトルは、『パルプ・ジャング』という、執筆者である、フランク・グルーバーが、世界恐慌の最中、ニューヨークに出て、タイプライター一丁で、極貧の中で悪戦苦闘するノンフィクションである」。オリジナルのタイトルは The Pulp Jungle です。日本語表記するのであれば、きちんと『パルプ・ジャングル』と書きましょうよ(校正、してるかあ?)。本のどこにも原作の刊行年を書かないのは、読者が勝手に調べろってことでしょうか。
しかし。
いちいちサンプルをあげて叩く気力も失せてしまうくらい、訳文の出来は論外ですが――そんな訳文を通しても、「パルプ・ジャングル」で孤独な闘いを生き抜き、(お金と)夢を手に入れていくグルーバーの熱量の高さは、充分に伝わってきますし、ウールリッチやチャンドラーが登場するエピソード自体は面白い。引き合いに出されることが多い、ミステリのプロット作法「十一箇条」を中心に、自伝の終盤に披露されるグルーバー流創作術は、経験に裏打ちされたサバイバルの知恵であり、示唆に富みます。
同人出版全体の信用を損なうといっていい、この訳書は、わざわざ取り上げる価値は無いのですが(採点はマイナスをつけたいくらいですが)、原作のポテンシャルを考えて、あえて登録しました。
求む、改訳。

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