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ミステリの祭典

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世界推理短編傑作集6
戸川安宣編

作家 アンソロジー(国内編集者)
出版日2022年02月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 弾十六
(2022/02/27 03:52登録)
残念ながら全く目新しさのないセレクション。新訳は(1)(7)(8)(12)かな?
私はバティニョールの新訳とプリンス・ザレスキー目当て(ハメット繋がり)で購入しましたが…
読んだら徐々に評価を追記していきます。
(1) Mémoires d’un agent de la Sureté : Le petit vieux des Batignolles (初出Le Petit Journal 1870-7-7〜7-19(13回) as by J.-B.-Casimir Godeuil)「バティニョールの老人」エミール・ガボリオ, 太田 浩一 訳: 評価7点
詳しいことは単独登録のガボリオ「バティニョールの爺さん」で評価していますので参考願います。作品の由来に面白いネタがあるのに、戸川さんは全然注目していない。次のEQの101 Entertainmentのノンブルの件なんてどうでも良いので、こっちの話を取り上げて欲しかったなあ!
何故か本作は初出時にガボリオ作として発表されていない。本書にも再録されている前説の通りゴドゥイユという謎の男の持ち込み原稿で実録、という設定で新聞に掲載された。連載の初回1870-7-7号には編集長が毎日書いてる新聞の「編集口上」を全部使ってゴドゥイユの原稿がいかに届いてプチ・ジュルナルがいかに熱心に彼を探したか(ここ迄は本書の前説と同じ。今回思いついて探すとプチ・ジュルナルの7月3日から6日まで念のいったことに「ゴドゥイユがやっと見つかった!驚くべき作品は近日公開!」という偽の自社宣伝を載せている)、そして前説には続きがあって、ゴドゥイユ作の本シリーズ(初出時には「パリ警察本部の一員の回想」というシリーズが始まるよ!」という設定だった)はバルザックの言う100年ごとのパリ年代記の新版で、パリの表も裏も描き出すのだ!現代のタブロー・ド・パリ(メルシエ作)だ!パリの秘密(シュー作)だ!と鼻息が荒い。続くタイトルも一部予告されていて、Un Tripot clandesitn(非合法の賭場)--Disparu(消えた)--Le Portefeuille rouge(赤い財布)--La Mie de pain(パンくず)--Les Diamants d'une femme honnête(正直な女のダイヤ)--La Cachette(隠し場所)という短篇が掲載されるはずだった。でもちょうどバティニョールが終わる7-19にある出来事が発生して、続きは無期延期になっちゃった。普仏戦争が始まったのだ。
戦争が始まったのでガボリオは7月24日から、今度は実名でプチ・ジュルナルに戦争小説(La route de Berlin ベルリンへの道、単行本(1878死後出版)タイトルはLe capitaine Coutanceau)を連載することになる。
何故ガボリオはプチ・ジュルナルというホームグラウンド(ルルージュ以外の代表作は大抵ここで連載している)に変名で短篇連作を発表することにしたのか?新聞としても宣伝効果から言えばガボリオ名を使った方が良いはず。事実、戦争小説の方はガボリオが書くよ!明日には始まるよ!と一週間連続くらいで新聞のトップで宣伝している。ゴドゥイユの連載途中で「実はガボリオでした!」と発表するつもりだったのか?それとも実話ものの方が売れると思ったのか?とても興味深いと思う。
(以下、2022-2-28追記)
ガボリオが最後のルコックものを書いたのは1868年。作者はスーパー探偵の絵空事に限界を感じて、リアルな捜査をドキュメンタリー・タッチで書きたくなったのかも。
p21 賄いつき、家具つきの部屋で、月30フラン… いまなら優に100フラン♠️訳注で「30フランは約3万円」とある。消費者物価指数に基づく私の概算では、当時の1フラン=約500円なので1万5000円程度。訳注での価値換算はあまり見たことがないので本訳のチャレンジを評価するが、当時の家賃は現代感覚からすると非常に安い印象がある。なので自説のほうが適当だろうと思う。(換算の詳細は「バティニョールの爺さん」書評で)
p33 夕刊紙の<ラ・パトリ>(un journal du soir, la Patrie)♠️1841創刊の新聞。基調は第二帝政支持のようだ。
p42 パグのような黒い小型犬(une espèce de roquet noir)♠️この犬、別のところでは「スピッツ…馬車の車掌が飼ってたような(p51)」と言われている。犬種が全然違うのだが、パグは護衛犬には向かないらしいから、こっち(一回見ただけの人の感想)が違うのだろう。
p46 よくアンテノールって呼ばれてました。以前、商売の関係で、よくそっちの名前を使っていたみたい(le nom d'Anténor, qu'il avait pris autrefois, comme étant plus en rapport avec son commerce)♠️この人は美容師をやっていたので、その関係なのか?それとも全然違う商売なのか?Anténorをあらためて調べたが、よくわからなかった。
p49 十万フラン♠️p21の本書の換算だと1億円、私の説だと5000万円。後者くらいでちょうど良いのでは?
p51 プリュトン(Pluton)♠️冥府の王。別名ハデス。英語ならプルート。
p68 モリエールだって、使用人の意見を聞いた(Molière consultait bien sa servante)
p70 二十フランの買物♠️p21の本書の換算だと2万円、私の説だと1万円。後者くらいでちょうど良いのでは?(しつこいよ!)
p78 乗合馬車(l'omnibus)
p84 七階の家政婦の部屋(la chambre de notre bonne au sixième)♠️店舗や自室は一階にある感じなので、どういう構造なんだろう。使用人の部屋はアパートの上階部分に集められているのか。
(2022-2-27記載; 2022-2-28追記トリビア部分)
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(2)「ディキンスン夫人の謎」ニコラス・カーター, 宮脇 孝雄 訳
光文社文庫『クイーンの定員1』収録のものと同じ。
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(3) The Stone of the Edmundsbury Monks by M. P. Shiel (短篇集1895)「エドマンズベリー僧院の宝石」M・P・シール, 中村 能三 訳(注釈協力 松原 正明): 評価4点
プリンス・ザレスキーもの。
衒学って、つまんないんだよ。独りよがりの最たるもの。まあ本人は楽しいんだろうけどねえ。(←お前も銃が出てきたら調子に乗るよなあ?)
語り口はまあまあ面白いけど、疲れる。アイディアは無茶苦茶(一部褒め言葉)。この妄想力を活かせれば良い作品が書ける作家なのかもしれない。ハメット「クッフィニャル島の襲撃」でオプが読んでた小説がシール作の長篇だったので、シールを読みたくなったのですが、創元『ザレスキーの事件簿』が入手困難で、私のタイミング的には本作が本アンソロジーに収録されていて良かった。
訳注は力が入っていて、多分、創元『ザレスキーの事件簿』よりも充実してるのでは?(未確認、当時からこのレベルだったのかも)
(2022-2-27記載)
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(4)「仮装芝居」E・W・ホーナング, 浅倉 久志 訳
光文社文庫『クイーンの定員1』収録のもの(タイトルは『ラッフルズと紫のダイヤ』)と同じ。
ラッフルズもの。もちろん翻訳は論創社のものよりはるかに正確だが、話のムードとか、バニーのいたいけな感じは論創社の翻訳の方がずっと良い。誰か論創社のムードで正しい翻訳を出してくれないかなあ。
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(5)「ジョコンダの微笑」オルダス・ハックスリー, 宇野 利泰 訳
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(6)「雨の殺人者」レイモンド・チャンドラー, 稲葉 明雄 訳
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(7)「身代金」パール・S・バック, 柳沢 伸洋 訳
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(8)「メグレのパイプ」ジョルジュ・シムノン, 平岡 敦 訳
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(9)「戦術の演習」イーヴリン・ウォー, 大庭 忠男 訳
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(10)「九マイルは遠すぎる」ハリイ・ケメルマン, 永井 淳 訳
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(11)「緋の接吻」E・S・ガードナー, 池 央耿 訳
ペリー・メイスンもの。
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(12) The 51st Sealed Room: or, The MWA Murder (初出EQMM 1951-10)「五十一番目の密室またはMWAの殺人」ロバート・アーサー, 深町 眞理子 訳: 評価6点
内輪受けのネタも弱くて、密室の謎もうーん…で、傑作というには程遠い作品だと思いました。乱歩先生の趣味とも違うような気がする。
意外だったのは作者のプロフィール。フィリピン生まれ、というからフィリピン系だと思ったら、Wikiで確認すると米国軍人だった父の任地の関係でたまたまフィリピンで生まれただけのようだ。フィリピンというとチャンドラーで知った洒落者のイメージ。ちょっと誤解してしまいました。
(2022-2-28記載)
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(13)「死者の靴」マイケル・イネス, 大久保 康雄 訳

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