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ミステリの祭典

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『マルタの鷹』講義
諏訪部 浩一

作家 事典・ガイド
出版日2012年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 弾十六
(2022/02/03 22:22登録)
私は文学研究っぽい評論が嫌いで、面白い小説を中途半端な象徴主義に還元する態度が気に入らない。狭い変換機能を頼りにつまらない発想の産物を生み出して何が楽しいの?と思っちゃう。
本書は、まあ抑制されたタッチで辛うじて読めるものだが、ガッチリした屹立するものが登場するとすぐ「これチンポコね」と指摘したりするのが陳腐でさあ。でも女性器は全く出てこないんだね。バランス悪いなあ。
それに、この人、オプものの短篇を全然読み込んでない。ハメットの長篇は読んでるようだが、『マルタの鷹』を語るのに『銀色の目の女』への言及が全く無いなんてねえ。
私はヘンリー・ジェイムズの『鳩の翼』が本作の発想のもとだ、というハメットがジェームズ・サーバーに語った真意を知りたくて本書を手に取ったようなものなんだけど、そこにもほぼ触れてなくてガッカリ。
あと本格探偵小説も読み込み不足で、ハードボイルド派との比較をしてしまっている。
ハードボイルド作家は従軍経験があるけど本格ミステリ作家には無い、とか(アントニー・バークリーはどうなる?)言ったすぐ後で、でもハメットは大した軍務についてないけどね、と言っちゃったり。
それから『マルタの鷹』の犯人像が当時としては画期的で本格ものには無いよ、と言ってるのだが、じゃあ有名な本格ミステリ2作(もちろん『マルタの鷹』以前に出版されたもの)なんかは違うんかい、と思ったり。
ここ最近、ずっとハメットを読んでいた私の感想では、『マルタの鷹』っていうのは前二作のオプものの長篇と比べて内容がぶっ壊れていなくて、上手にまとまった、という手応えがあった作品なのだろう、と思う。内容はハメットのオプものと繋がっていて、相変わらず女に弱く男に強い、ちょっと世間に対してひねくれた坊やの活動物語。つまり、本書では分析されていないけど、常にママを探してる男の子の話なんだろうと感じた。(結局、私も似たような象徴主義に陥ってしまった…)
付録の語注が行き届いていて楽しい。まあ銃関係はもっと書き込んで欲しかったけれど…(明白な誤りは『マルタの鷹』本編の私の評をご覧ください)

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