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ミステリの祭典

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ヒトコブラクダ層ぜっと

作家 万城目学
出版日2021年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 小原庄助
(2022/01/29 09:56登録)
舞台はオリンピックを終えた東京。新型コロナウイルスの影がないことに一瞬戸惑うが、のっけから人を食ったような万城目節が冴え、虚構の世界が立ち上がる。三つ子の榎土3兄弟の夢と汗、困惑と闘いに満ちた冒険行の始まりだ。みみっちいけど壮大で、難しげな発言をポンと置いてみたりする。筆遣いがちょうどいいあんばいで、気持ちよく振り回される。
3兄弟は両親が隕石の犠牲になった後、長男・梵天の号令一下、結束固く生きてきた。ただ彼らには特殊能力があった。梵天は壁の向こうを透視でき、次男・梵地はあらゆる外国語が分かる。三男・梵人は未来を予知する。しかしいずれの能力にも制約がある。そしてそれぞれ大事に抱いている夢があった。
そんな彼らが梵天の夢をかなえるため、宝石泥棒を働いたことから事態は急展開する。得体の知れない人物に脅かされ、なぜか3人そろって自衛隊の訓練生活に放り込まれる。訓練を終えるやPKOの一員としてイラクに派遣され、呆然としている間になぜか古代メソポタミアに迷い込む。
アメリカ海兵隊、自衛隊広報、古代の神も絡んで怒涛の活劇になだれ込んでいく。手に汗握る展開なのに、どこか悠揚たる筆致がにじみ出て、そこはかとないおかしみを醸し出す。
細かい仕掛けも巧みで、最後には驚きの真相も待っている。それにしても、万城目のようなアイデアと想像力勝負の小説を書き続けるのは、非常に難しいことなのだ。その領域で、過去の自分を超えようと挑戦する姿勢は称賛に値する。

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