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ミステリの祭典

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ジュネーヴのドクター・フィッシャー あるいは爆弾パーティ

作家 グレアム・グリーン
出版日1981年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2022/01/27 08:53登録)
本作が「ヒューマン・ファクター」の次の作品になるわけで、陰鬱な前作とはうって変わったシニカルなコメディ。でも神学的な寓意がいろいろあって、ややこしい作品なんだけども....いやいや、逆に構えずに「ややこしくなく」読んだ方がずっと有益なんじゃないのかな。
たとえば「負けたものがみな貰う」もそうだが、グリーンって「陰鬱」「重厚」ばっかりの作家でもなくて、軽妙な筆致で辛辣なアイロニーをぶちかます意地悪作家の側面があるわけだ。どっちかいうとこっちの面が「モダンなチェスタートン」という持ち味を感じる。本作だと「木曜日の男」に近いような作品と見てもいいんじゃないかな。

主人公はスイスでチョコレート会社の翻訳業務に携わる初老バツイチの一介のサラリーマン。偶然出会った若い女性とロマンスが芽生えて結婚するのだが、妻の父ドクター・フィッシャーは歯磨き粉で財を築いた大金持ち。しかし、娘に関心がないが、金に飽かせて主宰するパーティで小金持ちどもを辱めることに生きがいを感じている奇人だった。富に関心のない主人公は一度招待されたパーティに辟易する。しかし妻の突然の死によって痛手を受けた主人公の元に、再度のパーティへの招待状が届いた....

まあだから、妻が死んで生き甲斐をなくした主人公が、ロシアン・ルーレットを模した「爆弾パーティ」に際会して、自らの死を求めつつも「神」と対決するような....と読んじゃうと、妙に実存小説になってしまう。その手に乗らずにもう少し「軽薄」に読んでみたいものだ。「神はどうして、人類を辱めたがる?」

聖書によると、神は自分の姿に象って人類を創ったそうだ。ところが、出来あがったものを見て、神はおそらく、自分の不手際に失望したのだな。出来損ないの品は、ごみ箱に捨てられる運命なんだ。きみも、あの連中の様子を見たら、笑わずにおれんだろう。笑わぬのは、ユーモアを解しない者だけだ。

確かにユーモアは悪魔的になりうる。憐れみがそれに対抗する感情なのかもしれないのだが、神が示す「悪魔的なユーモア」を、被造物が「憐れん」で笑殺する場合には、神はどうするんだろうね?

前作にひっかけて言えば「ヒューマン・ファクター」ってそういうものなのかもね。ユーモアを巡るメタなユーモアが奏でるアイロニーとして読むのがいいのかな。

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