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ミステリの祭典

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かにみそ

作家 倉狩聡
出版日2013年10月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 メルカトル
(2022/01/18 23:12登録)
全てに無気力な20代無職の「私」は、ある日海岸で小さな蟹を拾う。それはなんと人の言葉を話し、体の割に何でも食べる。奇妙で楽しい暮らしの中、私は彼の食事代のため働き始めることに。しかし私は、職場でできた彼女を衝動的に殺してしまう。そしてふと思いついた。「蟹…食べるかな、これ」。すると蟹は言った。「じゃ、遠慮なく…」。捕食者と「餌」が逆転する時、生まれた恐怖と奇妙な友情とは。話題をさらった「泣けるホラー」。第20回日本ホラー小説大賞優秀賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

これを読んでいるそこの貴方、意味不明なタイトルと安っぽい表紙画を見て、どうせ子供騙しのB級ホラーだろうと思っていませんか。それは違います。誰が何と言おうと私は本書を絶対的に支持します。1ミリも無駄のない文章なのに、一つ一つの言葉に何とも言えない情感が篭っています。それは分かる人には分かるし、分からない人には分からない感覚です。だからと言って、私が優れた読者なのではなく、偶々作者と感性が合っていたに過ぎないと思いますが。
特に、主人公の心の虚無さと蟹の愛嬌が凄く作風にマッチしていて、そこも評価できますね。

文章の素晴らしさは表題作だけではなく、併録の『百合の火葬』にも言えることで、こちらは若干地味目ではありますが、抒情を湛えた文体はとても新人とは思えません。最早ホラーと言うより文学と呼んだ方がしっくりくるくらいです。
中編の表題作『かにみそ』は日本ホラー小説大賞の優秀賞作品ですが、他の候補作と争った結果大賞の該当作なしで落ち着いたそうです。個人的には大賞にして欲しかったですね。

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