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ミステリの祭典

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ダーク・デイズ

作家 ヒュー・コンウェイ
出版日2021年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/01/07 05:23登録)
(ネタバレなし)
 19世紀中盤のイギリス。「私」こと30歳代前半の医者バジル・ノースは、患者である老女の娘として出会った美貌の女性フィリッパに心を惹かれる。フィリッパと異性の友人として交際していたノースはやがてついに思いを打ち明けるが、彼女からは意外な返事があった。傷心のノースは折しも遠縁の親類から多額の遺産を得たこともあり、地方に若隠居する。だがそこにある夜いきなりフィリッパが来訪し、驚愕の事態を告げた。

 1884年の英国作品。
 近年、斯界の有志関係者によって行われている「明治・大正期の翻案小説の、21世紀の読者向けの完訳・新訳プロジェクト(素晴らしい!)」の一冊として新訳(完訳)刊行された広義のクラシックミステリ。本作の翻案小説版は、1889年(明治22年)に黒岩涙香によって『法廷の美人』の題名で発刊された(もちろん不勉強な評者はソッチはまだ読んでません)。

 作者ヒュー・コンウェイ(1847~1885年)は、『二輪馬車の秘密』ほかのファーガス・ヒュームなどと同時代の活躍で、いわゆる「ホームズ前夜」の英国古典ミステリの時代&流派に属する作家のひとり。30歳代で逝去したこともあって日本ではあまり知られていないようだが、活躍期間に比してそれなりの著作は遺している。

 ちなみに本作の原書は初版こそ少部数だったものの、徐々に人気を募り、最終的には(ミステリ史上に初期のベストセラー作品として名を残す『二輪馬車~』の総計50万部以上には及ばないにせよ)累計35万部という、当時としてはかなりの反響を呼んだそうである。
(詳しくは、本書の巻末の、小森健太郎先生の子細な解説を読んでね。)

 作品の中身は、殺人事件を題材に、薄幸のヒロインと彼女を支える主人公の男性の恋愛劇を主軸にしたメロドラマ・スリラー。
 もちろん21世紀の眼で見れば19世紀の旧作読み物として他愛ない面もあるが、一方でなんら照れることもなく王道を突き進むストーリーテリングの熱量は、なかなか侮れない。
 本文は210ページと論創海外ミステリの長編の中では薄目なこともあり、サクサク読めてしまう。
 悪い意味や揶揄ではなく、大筋や主要登場人物の配置をいじくらず、昭和30~40年代にジュブナイル読み物として誰かがリライトしていたら、かなりの人気作品になったような感じ。
 クラシック作品の嗜みとして、タマにはこーゆーのもいいものである。

 なお本作はあくまでノンシリーズもの=単発のラブサスペンスだが、前述の小森先生の解説によると、原書の刊行直後の1884年に「Much Darker Days」なるインチキの続編も登場したとのこと。原典の人気が確認されはじめたタイミングで慌てて書かれたニセ続編なんだろうけれど、安い題名と合わせて、なんか笑ってしまう。できればコッチも翻訳してもらって、ちょっと読んでみたい(笑)。

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