アルセーヌ・ルパン対明智小五郎 黄金仮面の真実 |
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作家 | 松岡圭祐 |
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出版日 | 2021年11月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 8点 | 人並由真 | |
(2022/01/02 08:19登録) (ネタバレなし。ただし乱歩の『黄金仮面』については、この文を目にする前に読まれることをオススメします~といっても、この作品の書名自体がすでにナンだね~汗~。) 1929年のフランス。50代半ばのアルセーヌ・ルパンは、若き日に死別した妻クラリス・デティーグとの間に生まれた息子ジャンの成長した姿と思しき、ある堅気の若者を陰から見守っていた。そんななか、ルパンは長年の部下グロニャールが聞きこんできた噂から、白人ではなく日本人ながら、どこか息子ジャンの面影を宿す、また別の青年の存在を知る。その青年の名は―。かたやかつてのルパンの年上の恋人にして、彼の犯罪学の師でもあった悪女「カリオストロ伯爵夫人」ことジョゼフィーヌ・バルサモの手下の残党である、マチアス・ラヴォクの一味がパリの暗黒街で非道を働いていた。やがてその魔手は、とある縁から日本にも伸びていく。宿敵ラヴォク一味を追うように日本に向かったルパンは、先に自分の息子ではないかとの可能性を取りざたされた若き私立探偵・明智小五郎に邂逅。そしてルパンは、さらに<もう一人の若き日本人>と運命的な出会いを果たす―。 いやー、一晩で文庫オリジナルの470ページほどを一気読み。 ルブランの原典も乱歩の諸作も実によく読み込んで(特に前者)、ジグソーパズルを組み立てるごとく見事な手際で築き上げた『黄金仮面』裏面史。 あのネタもこのネタもあっちのネタも使いこなしながら、原典のこなれの悪い部分や不順な個所をファン視点で咀嚼&解釈してゆく手際は、正に快感の一語。 多くのルパンファンが長年のあいだ、モニョり続けた『虎の牙』や『奇岩城』そのほかの<あの描写><アノ描写>にも、作者なりに踏み込みながら、それでも原典の世界をギリギリのところで毀損しないオトナの仕事を完遂。 極めてウェルメイドなパスティーシュである。 こーゆーのを読むと、数年前の辻センセイの『焼跡の二十面相』あたりが、いかにダメダメな作品だったか、改めて身に染みてくる(笑)。 後半、昭和4年の日本内外の当時の現実の事情に筆先が広がってゆくのは、単にファン向けのパスティーシュでは軽く見られるでしょ、と案じた作者の警戒ぶりも感じたけど、クライマックスそしてエピローグまで、時代色とストーリーの流れとは、最後まできちんと整合させてある。 明智とルパン、二大主人公もいいけれど、第三の主人公といえるあの人のイヤー・ワン的な描写もいいなあ。これまで多くの作品で、ルパンとあのヒトとの関係性を設けた二次創作はいくつも読んだけれど、たぶんこれが一番泣ける。そっちの方面からニヤリとさせるネタの仕込みもたっぷり盛り込まれてるし。 まあルパンの周辺の文芸に関しては、ちょっとだけ勢いが過ぎちゃった箇所がないでもないけれど、トータルとしてはぎりぎり許容範囲……だと思いたい。 あと、クライマックス、主人公コンビがいささかお行儀よすぎる感じもあるかな(活劇描写としてはかなり大暴れしているのだが、全体的に優等生的な印象で)。 それでも十分に面白かった。有名キャラクターの二次創作パスティーシュとしてはオールタイムの中でも、原典世界への踏み込み度において、確実に上位にいく一冊だとは思うぞ。 |