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ミステリの祭典

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パルムの僧院

作家 スタンダール
出版日1950年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2021/12/30 16:52登録)
今年のシメの書評になると思う。ちょっと変化球を狙って大古典。いや本作、「脱獄」がメインの小説だからね。イタリア北部に小さな宮廷が乱立していた時代に、そういう宮廷に仕える大貴族たちが主人公。だから現代人の眼から見たら、鷹揚なんだけども、市民的な道徳心皆無というか、独白大好きでも内面性を欠いていて、自分の政治的立場の計算と衝動的な情熱との間で突発的に動いちゃうキャラばっかり。

一言で言えば「悪漢小説」なんだよ。主人公のファブリスって血の気が多い若様で、侯爵家の次男なんだけどナポレオンに憧れてワーテルローの戦いに押しかけ参戦しちゃうのが、幕開き。命からがらイタリアに戻るんだが、父と兄に嫌われて事実上亡命を強いられ....でも叔母のサンセヴェリーナ公爵夫人とその愛人のモスカ伯爵の手引きで、モスカが首相を務めるパルム公国に、大貴族の身分から司教候補としてデビューしちゃう。別に信仰心があるわけじゃないけど、うまく現司教に取り入ってパルムでの地位を固まってくる。けど血の気が多いから旅芸人一座との女出入りで恨まれて襲われて、自衛とはいえ人殺し。本来身分違いでまともな罪にならないはずが、モスカの政敵に事件が利用されて、ファブリスは逮捕、城塞の塔に監禁される。モスカと公爵夫人が策謀し、城塞司令官の娘とのロマンスもあって脱獄...という話。

長いわりに登場人物の少ない話だから、ファブリスにしてもモスカ伯爵にしても公爵夫人にしても、キャラは一筋縄ではいかない。一応「自由思想」というのが話題になるし、モスカも一方の党首なんだけども、誰もマトモに思想なんて信じちゃいない。敵も味方も王侯と大貴族ばっかり。権門らしい鷹揚さで買収を試みるとか、多重に陰謀を企む懐の深さで勝負。小さな宮廷の狭い人間関係の中での、腹芸みたいな世界で、その中でシビアな人間観察が光るあたりが古典らしさ。
牢獄に囚われたファブリスが、毒殺を警戒しつつ、外部との連絡を取って次第に脱獄計画が練り上げられていくのに全体の1/4くらいの分量があるから、ここらへんのダイナミックな興味が一番の読みどころ。実際にあった脱獄事件に取材しているようで、プロセスがリアル。

まあだから、ロマネスクな味があるとはいえ、自分以外何も信用しないようなシニカルな話だから、若い人が読むような小説でもないと思う。自由思想って実のところ「思想からの自由」みたいなもんだ、という悟りが必要なんじゃないかな?

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