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ミステリの祭典

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砂に埋もれる犬

作家 桐野夏生
出版日2021年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 HORNET
(2021/12/25 22:36登録)
 男に溺れるネグレクトの毒母から逃れた少年は、コンビニで慈悲を施してくれた夫婦のもとに引き取られることになった。だが、学校にも通えていなかった少年は、人との順序立てた関係作りが分からない。そのいらだちは、仄暗い怒りや欲望に変わっていき、貧困から抜け出せたはずの少年の生活を道に外れたものにしていってしまう―
 虐待を物語の端緒としながらも、少年をただ「無垢で無害な被害者」として描いていないところに、物語の深みを感じる。だからといって、それを間違いとして描くのではなく、正解のない人間世界の複雑さ、人の心の在り様の不安定さをただ率直に表現している。
 分かりやすい勧善懲悪の物語や、一定の着地点を見出す物語とは一線を画しているのが桐野夏生の魅力であると改めて感じさせる作品。

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