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ミステリの祭典

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ヒストリア

作家 池上永一
出版日2017年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 小原庄助
(2021/12/18 08:21登録)
物語は、ヒロインの知花煉が、一九四五年三月の米軍の沖縄上陸作戦に逃げ惑う場面から始まる。空襲の爆撃の衝撃で彼女はマブイ(魂)を喪失した。普通なら肉体を失って霊会に行くはずが、どういうわけか肉体は存続した。マブイは爆風で地球の反対のボリビアまで飛ばされた。こうして知花煉は二人になり「私」と「わたし」の物語が並行していく。
肉体とマブイの分離した戦いで、「私」と「わたし」がぶつかり乗っ取りをはかる。同時にその戦いは、当時の米国とソ連の冷戦構造を背景とし、核ミサイルの強奪、キューバ危機の到来、ナチスの亡霊たちの暗躍、ゲバラとの愛などスケールの大きな物語へと発展していく。
冷戦時代の裏面史という側面もあるが、いささか偶然を多用したご都合主義も目立つ。ありえないくらいに歴史上の人物たちが簡単に登場し交錯するからだが、でもそもそも肉体と魂の相克という物語自体がリアリズムから遠く、それでいて想像力の飛翔は極めて伸びやかであるがゆえ、世界史を戯画的に捉えた手法として愉快な気分にも駆られる。
だが、作者が見据えているのは終わりなき戦争であり、アメリカ軍に蹂躙されている沖縄の現状だ。肉体と魂に分離した一人の女性の激動の時代に生きた波乱万丈の歴史がもう一度、終盤で沖縄に焦点があわさる。人間にとって魂の還る場所とは何かが鋭く問われるのである。最後はやや政治的主張が強いきらいもあるが、読み応えたっぷりだ。

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