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ミステリの祭典

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週刊少年ジャンプ 2021年3・4合併号
「炎眼のサイクロプス」(原作 石川理武、作画 宇佐崎しろ)収録

作家 雑誌、年間ベスト、定期刊行物
出版日不明
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 おっさん
(2021/12/15 09:45登録)
歳をとってくると、一年が過ぎるのが本当に早く感じられるようになってきます。
今回、取りあげる『週刊少年ジャンプ』2021年3・4合併号は、実際には2020年の年末に出版された、同年の最終号です。
センターカラーで載った、47ページの読切作品「炎眼のサイクロプス」(原作 石川理武、作画 宇佐崎しろ)に言及しておきたくて、いささか反則気味ではありますが、取りあげました。
このマンガは、読切として掲載された「異端の弁護士サスペンス」(同号のコピーより)ですが、そして作中の事件――芸術賞の受賞パーティの席上で発生し、十八名もの重軽傷者を出した、衆人環視下の炎の惨劇。逮捕され、法廷に立たされた女性芸術家の無実は証明できるのか――は完全に決着して終わるのですが……でも、これは完全に、連載化を想定した、長編のプロトタイプなんですよ。
サイクロプス(ギリシア神話に出てくる、片目の巨人)を名乗り、高額の費用と引き換えに必ず勝訴をもぎとるが、弁護士資格を持たない異端の弁護人という、主人公のキャラクターには、チートな異能があって、その秘密がシリーズとしての引きになっているわけです。
ジャンプ恒例の読者アンケートで上位になれば、連載が決まって、少しずつサイクロプスの秘密が明らかになっていく、という構想だったと思いますが、残念ながらこのレヴューを書いている2021年の12月現在で、それは実現していません。
ハウダニット(誰も触れていない「作品」がなぜ爆発したのか? 生きていたらジョン・ロードが使いそうなトリック)の作りこみは甘く、サイクロプスの謎解きも、一方的な種明かしではあるのですが、畳みかけるような演出がそれをうまくカバーしています。おそらく原作のストーリーは、(ミステリとしては)前後編の2回分が必要な内容だったでしょう。しかし、省略をきかせて、それを47ページにおさめてみせたのは、少年マンガ的には正解。作画の人の力量もありますし、編集者のディレクションもあってのことでしょう。
長編の導入のエピソードとしては、個人的には申し分ない出来だと思うのですが……「短編」として評価せざるを得ない現状では、前述のように、シリーズものとして引きを作ってしまっているのが逆に足を引っ張って、まあ5点かな、と(ああ、今回の採点は、あくまで「炎眼のサイクロプス」のみを対象としたもので、同時掲載の他作品、巻頭カラーの「ONE PIECE」とかは考慮していませんw)。
ちなみに原作の石川理武(いしかわ・おさむ)さんは、ご本人も漫画を描かれるかたで、2020年、集英社公式サイト「ジャンプ+」に短編「雨の日ミサンガ」を発表しているほか、紙の『ジャンプGIGA2021 SUMMER』にも、読切「グラビティー・フリー」を発表しています。
作画の宇佐崎しろ(うさざき・しろ)さんは――未完の名作『アクタージュ』(ミステリではないので、ここではナンですが、とにかく面白い、面白い)の絵の人ですね。「炎眼のサイクロプス」、もしかりに犯人の性別が違っていたら、終盤、この人の絵でどんな場面が繰り広げられたか……ふとそんなことを考えたりもします。

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