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ミステリの祭典

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フォート・ポイントの殺人
女性私立探偵ロニー・ヴェンタナ

作家 グロリア・ホワイト
出版日1993年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/12/04 15:40登録)
(ネタバレなし)
 サンフランシスコ市街の海岸通り。「わたし」こと32歳の女性私立探偵ロニー・ヴェンタナは朝のジョギング中に、ある男が別の男性をゴールデン・ゲイト周辺のフォート・ポイント(南北戦争の要塞跡)から海に突き落とす図を、たまたま目撃した。突き落とした男はロニーに気づいてもの凄い形相で追ってくる。ロニーは近所の沿岸警備隊の派出所に駆け込んで難を逃れるが、追ってきた男は消えていた。ロニーの訴えで警備隊のジョン・スコープス大佐がゴールデン・ゲイト周辺の捜索を始めるが、死体は見つからない。ロニーは事件の状況を警察に届け、その夜は、大先輩で友人である65歳のベテラン私立探偵ブラックウッド(ブラッキー)・クーガンとともに、私立探偵業界の講演会に赴いた。するとその場に……。

 1991年のアメリカ作品。
 メキシコ人と白人のハーフの美人である、女性探偵ロニー(ロニーヴェロニカ)・ヴェンタナ、シリーズの第一弾。
・8年前に高校時代からのボーイフレンドだった夫ミッチェルと離婚したが、今も友人関係は維持している
・両親が金庫破りだったが、ふたりとも娘を悪の道には誘わないまますでに他界した
・かつて仮釈放の出所者を保護監察する公務員「仮釈放官」だった
・今後の探偵ビジネスに役立つ可能性を認めて、専門学校で日本語を学んでいる
 ……などなど、ミステリの女性私立探偵の総覧ガイドブックを作るなら、キャラクター紹介の記事ネタには困らない、文芸設定がいくつも用意された主人公。もちろんというか、さすがにというか、デビュー編だけあって、上記の設定はちゃんと必要十分な程度にはお話の筋立てに活かされている(あ、日本語の設定は、今回はあんまり関係なかった)。

 翻訳も良いのだろうが、かなり読みやすい作品。さらに、前述の大先輩の探偵ブラッキーや、そのブラッキーと犬猿の仲だが今回の事件を介してロニーと知り合うフィリー・ポスト警部補、ロニーのハイスクール時代の元学友で今は彼女の情報源となっている警察の管理課員アルド・スティヴィックほか多数のサブキャラたちの人物描写もいい。

 中盤で話に大きな展開があったのち、話の方向が少しずつ絞り込まれてくるが、この辺のテンポもなかなか小気味よさを感じた。
 途中で殺人? 事件が何回か生じて、ストーリーにメリハリをつけるのも良い。
 最後まで読み終えると思わせぶりな話のパーツの中にはいくつかあまり意味がないままに終わるのもあるが(いわゆるミスディレクションとして用意された感じではない)、それらの夾雑物みたいなものも、本作の場合は作中にある種のリアリティを宿す感じになっていた。
 読者の方で推理の余地はほとんどなく、ロニーが拾い集めた情報を、読み手は付き合って追いかけていくだけだが、事件の実態がわかるタイミングも悪くなかった(ただしある意味でかなりダイレクトな犯人の動機が、いささか直球すぎた感じもあるが)。
 
 主人公ロニーの公私の内面描写や、探偵としての、人としての、モラルと現実の折り合いのさせ方も印象的。
 ハードボイルドというよりはあくまで20世紀終盤の私立探偵小説だが、うっすらと<ハードボイルドの心>みたいなのも感じないでもない。
(ただしロニーの探偵としてのモットーや、信条的なべからず、などはあまりない。その辺はむしろ、先輩のブラッキーの方が年の功で強めかも。)

 処女長編としては十分によくできた一本。たまたま見かけて興味を抱いて古書で購入した作品だが、当初の期待以上に楽しめた。このシリーズはあと2冊翻訳が出ているようなので、またそのうち読んでみよう。

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