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ミステリの祭典

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原宿コープバビロニア 心臓のように大切な
改題・改稿『99の羊と20000の殺人』

作家 植田文博
出版日2017年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/11/30 07:21登録)
(ネタバレなし)
 原宿の老朽高級マンション「コープ・バビロニア」。そこで各企業の電気設備管理業を続けながら、副業で「人助け」の私立探偵を営む26歳の美青年、新本慶一。慶一は、バイト社員で、かつて彼に恩義を受けた女子大生の佐々木綴(つづり)とともに、ある日、山崎陶子という初老の依頼人を迎えた。陶子の依頼内容は、数か月前から原因不明の奇病で廃人状態になっている息子・浩太の発病の原因または、罹患の経緯を探ってほしいというものだ。調査を始めた慶一たちの前には、奇妙な「謎の病死事件」の事例が明らかになり、さらにそれは江戸時代から現在まで遺伝的に続く奇病? と思われる。だがこの事態の奥には、さらに深遠な惨劇とあまりにも特異な人の情念が潜んでいた。

 改稿・改題された文庫版『99の羊と20000の殺人』の方で読了。
 活字の級数も大きめで、自然と一ページごとの文字数もそんなに多くない。さらに登場人物がそんなに頭数いない上に、イベントや話のネタも豊富、シロートにもやさしい医学ミステリ(といっていいだろう)なので、リーダビリティの点では申し分ない。ほぼ三時間でいっきに読めた。
 
 しかし後半の筋立ては、相応のインパクトであった。
 まあ作中のリアリティを考えるなら、ここまでこじれた状況にはそうそうならんだろ? という感慨も湧いたが、逆の発想で、あれやこれや種々の事態がよじれて絡まったシチュエーションから発生した物語、ともいえよう。
 いずれにしろ、2020年代の現在、喉元過ぎれば……で現代人が忘れかけていたとある問題というか案件を、うまくメインテーマとして扱っている。
 そして何より、殺人の動機としては、これまでにあまり例を見ない、かなりぶっとんだ発想であろう(評者が不勉強なだけかもしれないが)。
 テーマを鑑みるに、ジャンル分類は社会派、でいいね? 

 主人公コンビはいかにも連続テレビドラマ化を狙った線だが、それなり以上に魅力あるキャラクターにはなっていると思う。そのうち、シリーズ化してまた別の作品にも登場させてほしい。
 最後に、タイトルは本作の場合、改題後の方がイイね。題名の出典は新訳聖書のひとつ「ルカの福音書」から(ネタバレには絶対になってないハズ)。

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