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ミステリの祭典

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いつになく過去に涙を

作家 笹沢左保
出版日1971年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2021/11/28 15:59登録)
(ネタバレなし)
 熊本のダム工事現場で働いていた大卒の労務者で20代後半の千波哲也は、不測の事故で死にかける。だが千波を救って代わりに命を失ったのは「東大出の新さん」と呼ばれる、同じ学士の早乙女だった。30代初めの早乙女は以前から父親を殺害した仇の情報を探しており、最近その当てが見つかって今の職場を去るつもりだった。末期の早乙女は、自分が叶えられなかった父殺しの犯人の捜索を、千波に願って息絶える。千波は容疑者の手掛かりがあるらしい札幌に向かうが、その道中で訳ありらしい謎の美女、上月寿美子と道連れになる。

 徳間文庫版で読了。
 就寝前に、短めな長編ならもう一冊読めそうだったので、文庫で本文210ページほどのコレを読み出した。
 
 笹沢の諸作に違わず、主人公が動けば犬棒で事件の関係者、物語の主要人物が反応してくれる。おかげで話はスイスイ進むが、一方でどうもウソ臭いリアリティの欠如感もつきまとう。
 一般市民の千波が出先の北海道でいつまでも活動費ももたないだろうから、ひと月くらい身を潜めて逃げ回っていようとキーパーソンの何人かが消極的な動きに出たら、この作品はすぐに破綻してしまうような。

 最後に明かされる真相はそれなりに意外だが、一方で前半からつきまとっていた<ある登場人物には、とある疑問は生じなかったのか?>という部分は、ほぼスルーされた。ちょっと雑な印象も残す。

 あと、最後のドラマを締める演出は、悪い意味で、昭和の時代ならこういう気取った無神経な叙述も許されたのだな、という思いがしきり。とにかくこーゆーのはあんまり読みたくない、作中の情景として見たくない。これで1点減点。
 まあ笹沢作品らしいいつもの作者風のロマンチシズムは、それなりよく出てるとは思う。

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