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ミステリの祭典

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黄金海峡

作家 南里征典
出版日1981年07月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/11/28 05:06登録)
(ネタバレなし)
 昭和50年代半ば。山陰の海岸で、半年前の事故で生じた潜水病のリハビリをしていた30代後半のプロダイバー、笛吹(うすい)草介は、近隣の「白骨村」の村民100人がいきなり消え失せるという怪事件に遭遇した。それと前後して笛吹には、謎のアメリカ人、ハミルトン・ブレジンスキイ、そして笛吹の馴染みの依頼主であるサルベージ会社の社主、鷹森浩三から、別々に同じ案件についての仕事の相談があった。それは70年前に日露戦争の際に対馬沖に沈んだバルチック艦隊の特務艦で、多額の英国金貨を積んでいるはずのオルティッシュ号のサルベージの仕事だった。

 作者の長編第三作。徳間文庫版で読了。

 後年にはエロ&バイオレンス作家としての浮き名が定着してしまう作者だが、新人小説家としてデビューした初期には、80年代前半の冒険小説新世代の波に乗った方向で、ミステリファンの間でもソコソコは注目を集めていた。

 で、本書の雰囲気としては、まだあまりぶっとんだ方向には行っていない初期から過渡期の西村寿行(『娘よ涯なき地に我を誘え』とか『化石の荒野』の頃の)みたいな作風で、若干~それなりのエロとバイオレンスの要素で味付けしながら、話の軸そのものはマトモな冒険小説の形質を守っている。
 
 そういう前提で読んでいくと、序盤の一夜にして消えた村の謎(これもやはり西村寿行の『峠に棲む鬼』みたいだ)でミステリっぽい興味を誘いながら、日露戦争からの現代史、そしてバルチック艦隊が大海を縦断・横断するための兵站確保用に積載していた軍資金という大ネタで読み手の関心を煽ってゆく。
 
 悪党同士の腹の探り合い、謎の美女の暗躍、など悪く言えば通俗っぽい筋立てだが、まあこれはこれでこういうものと思えば悪くはない。一方で中盤から後半にかけて緻密に描きこまれる沈没船サルベージの克明な描写などは、そっちの方面にまったく知見も関心もない評者などでもグイグイ引き込まれるなかなかの迫力。この辺が本作の一番の価値かもしれない。
 
 かたや終盤の事件のまとめ方(逆転劇も含めて)は、かなり描写を端折った感じがあり(都合よすぎるというか、×××などの問題はなかったの? などの疑問もいくつか)、なんか作者はサルベージのシーンで執筆の熱量を使い切ってしまった印象がある。
 村人たちの行方というか消失の解決も、あんまり見ない展開だった分、妙なリアリティを感じさせた面もあるが、(中略)というのは、やはりちょっとオカシイだろう。

 まあ終盤のいくつかの雑な部分にあえて目をつぶるなら、ラストはビジュアル的にはちょっと面白かったかもしれない。

 読後にネットで他の人の感想を探ると、ほとんど確認できないが、それでも1989年に全10回でラジオドラマ化されていたことは知った。笛吹役は高橋長英。円谷プロ版『スターウルフ』のリュウだね。

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