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ミステリの祭典

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殺人部隊
マット・ヘルム、部隊シリーズ

作家 ドナルド・ハミルトン
出版日1981年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/11/20 15:09登録)
(ネタバレなし)
「私」こと、アメリカの諜報工作組織「M機関」のエージェントであるマット・ヘルムは、上司マックから新たな任務を言いつかる。それはポラリス型戦略核潜水艦についての機密を握る科学者ノーマン・マイケリーズが東側陣営に軟禁されているらしいので、女性工作員「ジーン」を指揮して、現地に潜入させる段取りをとれというものだった。ヘルムはすでに現地周辺にいるというジーンに接触を図ろうとするが、予想外のトラブルが発生。さらには、ヘルムの隠密行動用の顔(暗黒街の荒事師ジミー(ラッシ)・パトローニ)を信じ込んだこの件の関係者、現地の人間たちが彼を殺し屋として雇おうと、殺人仕事の依頼を持ち掛けてくる。ヘルムは現在の状況に揺さぶりを掛けるため、半ばこの流れに乗るふりをするが。

 1962年のアメリカ作品。
 マット・ヘルムシリーズの第4弾(第5弾というWEB上での資料もある)。評者は前回、第一弾『誘拐部隊』を読んだので、本来ならそのまま第二弾『破壊部隊』に進むつもりだったが、先日、出かけた都内の某所の古書店で本作のHM文庫版を安く入手。それでつまみ食いで、こちらから先に読んでしまった。
 本書の冒頭で何やら以前の任務・事件がらみのものらしい話題が出るが、それは本作以前のシリーズのものだろう。こういういい加減な読み方のために『誘拐部隊』のその後の展開がちょっと分かってしまった。

 50~60年代私立探偵小説の作法やスピリットをスパイ小説の方に導入した、とよく言われる本シリーズだが、本作も正にそういった趣が濃厚な一冊。
 あらすじに書いた通り、時には殺し屋も務める素性の暗黒街の人間に誤認された(まあ当人自身がそう装っているのだが)ヘルムに、作中の複数のメインゲストキャラが殺人を依頼。ヘルム自身がそんな流れを利用して事態をかき回そうとする辺りは、エスピオナージというよりはクライムノワールもののような展開で、なかなか面白い。
 それと、冒頭からのキーパーソンとして名前が出てくる科学者マイケリーズ博士がなかなか物語の表面に出てこないのもこの話のミソだ(しかしこの博士、40歳前~30代後半と叙述されながら、すでに22歳の娘テディ―がいる。いや、ありえないことじゃないが、ちょっと無理があるような……)。

 陰謀の中核にいた黒幕の正体というか、その動機もなかなか意外で、スパイスリラーとしては面白いところをついてきた感じ。ある種のリアリティを感じさせる原動で、終盤のクライマックスの緊張感も相応のもの。妙に男気めいたものを感じさせた、某サブキャラクターの扱いも良い。
 全体的にとても良くできたシリーズもののスパイ活劇編の一本だと思うが、まとまりの良さ、全体の小品感が7点をつけるのをはばかって、この評点で。まあ6点の最高クラスということで。このシリーズのファンが多かったというのは、今さらながらによくわかる。

 なおHM文庫版の巻末には、竜弓人(なんか久々にこの名前に触れた)による、ディーン・マーチン版の映画4部作の話題を主にした、詳細な解説がついている。原作と大きく離れた映画の各作についてひとつずつ、良いところもダメなところも語った興味深い文章で、映画版の第四作のシナリオがあのマッギヴァーンだということもこれで教えられてぶっとんだ。評者は映画は何作か過去に観ている記憶があるが、たぶんこの第四作はまだ未見。紹介によると凡作っぽいが、ちょっと興味が湧いたので、機会があれば観てみたい。

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