(2021/11/20 23:33登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家イーニス・オエルリックス(1907-1982)がデビューしたのはクレイグ・ライス(1908-1957)と同じく1939年、ライスも多作家ではなかったですがオエルリックスは輪をかけて寡作家でわずかに8作の長編ミステリーしか残していません。8作の内7作は牛乳配達人マット・ウィンターズシリーズですが、21世紀になってやっと日本に初めて翻訳紹介されたのは1941年発表の(唯一の)非シリーズ作品の本格派推理小説である本書でした。論創社版の巻末解説によれば英語原題は「Murder Makes Us Gay」で「人が殺されてしまうとなぜかわくわくしてしまう」という意味のようですが、陽気とかユーモアとかを感じさせる内容ではありません。重苦しいとか堅苦しい作品でもないですけど。1人の有力容疑者を大勢が犯人と決めつけてますがほとんどが感情任せです。決定的と思える証拠や証言はほとんどなく、他の容疑者の追及もそれほどでもなく、人物関係が錯綜していることもあって微妙にもやもやした展開ですが終盤はなかなか劇的です。謎解き伏線を回収しての推理説明もありますが、むしろ(犯人以外の)容疑者たちがそれまでの嘘や隠し事を入れ代わり立ち代わりで自白していく場面が印象的です。犯人でもないのになぜそんなことしたのかについては説得力ある説明になっていないように思いましたが。
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