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ミステリの祭典

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火星兵団

作家 海野十三
出版日1980年06月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/11/18 05:48登録)
(ネタバレなし)
 高名な世界有数の天文学者ながら、先日なぜか、ひそかに、所属する大学の名誉教授職を追われた蟻田老博士。彼は本来は自分の半生を語るはずの夜間のラジオ番組で、突然「火星兵団」なる謎の話題を掲げ、聴取者への警告を促した。かたや同じ夜、千葉在住の科学好き少年・友永千二は怪しい物体に遭遇。やがて「丸木」と名乗る謎の怪人に出会う。知性はあるようだが一般常識が欠損した丸木は、銀座で殺人と強盗を働いて逃亡。現場にひとり残った千二は、共犯の容疑者として逮捕されてしまう。これら相次ぐ事件のなかで、地球に外宇宙から衝突不可避の軌道に乗って、モロー彗星が飛来しているのが確認された。そんな非常事態のなか、地球上の全生物を一定数ずつ捕獲し、火星に家畜として鹵獲しようとする火星兵団の脅威が露わになってゆく。

 1980年の桃源社ソフトカバー版で読了。
 これもウン十年前に購入していた一冊だが、昨日、部屋から見つかったので思い立って、一気読みした。

 「少国民新聞」(のちの「毎日小学生新聞」)の昭和14年9月から翌年12月まで全460回にわたって連載された、作者の最大長編。
 下手すりゃ二日かかるかな? と思ったが、当時としては最高級にハイクォリティのライトノベル(ジュブナイル)、強烈な加速感のもとに3~4時間で読み終えた。
 
 なお本レビューのはじめに結構、長め? のあらすじを書いてしまったが、実はここまでの展開は、書籍化の際に付加した前書きで本編より先にしっかり作者自身が語っている。
 しかもソコまでの筋立てから、まだまだまだまだ先があるので、今回はそういうことで、乞・御了承。

 それで<地球に迫る二重の危機(彗星の激突と火星人の侵略)>という大設定は、東西SF全部の系譜のなかで完全に画期的なものかどうかは知らないが、少なくとも本邦のSF作品のなかではそれなりに初期のひとつであったろうとは思う。
 100%この設定を活かしきれているとはいえないが、十全に物語に緊張感を与えているのも間違いない。
 地球の最期を自覚してなお捜査活動に励む警察組織の描写など、正に『地上最後の刑事』の先駆だ。点描的に語られる、地上各地の騒乱図も昭和・戦前SFとして味わい深い(地球の最後が近づき、株価が下がるという描写がでてきてかなり驚いたが、先駆は海外SFか何かにあるのだろうか?)。
 あと、火星兵団の侵略に勇敢に立ち向かった列国が、日独伊というのはああ、いかにも時代だな、という感慨だったが、さらにもう一国、意外な? 国が勇壮な活躍を見せている。この辺も現代史にからめて深読み? すれば、興味深いかもしれない。

 しかしキーパーソンである謎の怪人・丸木のなんともいえないキャラクターの魅力と存在感は、かねてより石上三登志などが随時エッセイそのほかで語っていたとおり。最終的にその丸木がどういう物語上のポジションに落ち着くかはここでは書かないが、このキャラなくしては本作の面白さはありえなかったのは絶対に間違いない。

 いくつかの伏線らしきものが忘れられたり、作中のリアルとして「ああいう事態は起こらないのか」「こういう発想をする者は誰もいないのか」といったツメの甘さもそれなりにあるが、乱歩的な探偵物語とのちの香山滋に継承されるロマン派SF、その双方の要素を融合させた作品としても楽しめた(蟻田博士の屋敷の秘密のカラクリ描写なんか、エスエフというより、あくまで少年探偵ものの面白さだな)。

 のちの手塚治虫の諸作(アレやアレやアレ)や、果ては1970年代の某ロボットアニメまで、この一作からおそらく影響を受けたのであろう後世のタイトルは限りなくあると思う。そういう意味でも興味深く読めた。
(かのアーサー・C・クラークの名言「先鋭的な科学は、ほとんど魔法と区別がつかない」と同意の叙述が出てきたのにもビックリ!)

 そーいえばこの作品、1980~90年代に、前述の石上三登志の参与の上で東宝で特撮映画化の企画もあったと読んだことがある。もちろん企画が実現しても、『海底軍艦』みたいに大幅に潤色されて映像化されたんだろうけど、それはそれでこの原作の面白いところを掬い上げた形で観てみたかった。
 とりあえずは今年になってスタートしたみたいな板橋しゅうほうのコミカライズ(そんなのが始まっていたのは、本当についさっき知った)に期待しようか?

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