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ミステリの祭典

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サモアン・サマーの悪夢

作家 小林信彦
出版日1981年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/11/13 05:20登録)
(ネタバレなし)
 テレビ番組企画会社の代表である30代後半の柳井英之は、かつての恋人・山尾伶子がハワイで自殺したという知らせを現地から受け取る。伶子はオアフ島の日本系ブティックで支店長として活躍していたが、死体はキラウェア火山の火口で発見された。現地に飛んだ柳井は、彼女の自殺とされる状況に不審を抱く。そんな柳井に謎の日系人の老富豪・志水守が接近。やがて事態は、柳井の想像もしない方向へと展開してゆく。

 あらら……。小林信彦の書いた作品の中では、一番まっとうなミステリではなかろうか(評者がこれまで読んできた小林作品の小説群は、かなり偏っているが)。
 新潮文庫版で読んだが、その裏表紙に、いかにもソレっぽい文言が並べてあり、コレは正に<そーゆー作品>かな? と思いながらページをめくったが、完全に、和製(中略)ミステリであった。
 もしかしたら、黎明期の、あの技巧派の後輩作家なんかも意識(対抗)しながら、これを書いたのかとも思わせる。
 
 それでも観光ガイド小説的なサービスで読者と編集者に気を使ったり、さらにその一方で物語の核となる部分にいつもの小林信彦らしいルサンチマン<(中略)への怨念、(中略)への嫌悪……etc>をしっかり埋め込んであるあたりは、ああ、まぎれもなく小林作品だなあ……という感じだ。

 トータルとしては普通以上に面白かったけれど、終盤で明かされる某キャラの正体など、ちょっと作りこみ過ぎちゃった気もしないでもない。まあ、まとまりは良くなったけれど、一方で最後の最後まで、作者の情念の捌け口に付合わされるのかというゲップ感も、正直、湧いてくるんだよね(汗)。
 こんな感想、万が一にも作者の目に留まったら、それこそまたギャーギャー言われそうだが(大汗)。
 
 実際、作者はミステリファンとして、長年の間に浴びるほど東西のミステリを読み込んでいるんだから、こういうマトモな作品が自然と醸造されてきてもちっともおかしくはない。
 小林信彦ミステリと言っても「オヨヨ」と「神野推理」「紳士同盟」だけじゃないんだ、としごく当たり前のことを十二分に実感させてくれる佳作~秀作。

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