(2021/11/12 08:03登録)
(ネタバレなしです) 野村正樹(1944-2011)はサラリーマン時代の1986年に本書を発表してデビュー、1995年に退社するまで兼業作家でした。初期はミステリー作品が多かったですが1990年代以降はビジネス関連本や趣味関連本の方が圧倒的に多くなり、ノンフィクションライターとして認知している読者の方が多いかもしれません。本書は1985年の夏に新幹線の中で起きた毒殺事件を扱った典型的なトラベルミステリーですが、それほどバカンスを感じさせる内容ではありません。緻密なアリバイ崩しが特徴の本格派推理小説で、最初の謎解き議論で有名な「最速のはずの列車に追いつく後発列車」トリックが浮かび上がったりしますがさすがにこれだけで解決するはずもなく、試行錯誤の上に複雑なトリックが図解付きでわかりやすく説明されます。トリックはよく考え抜かれていますが被害者の独身女性が妊娠中だったのに(犯人かどうかはともかく)父親捜しを後回しにしているなど謎解きプロットとしては甘いと感じる部分もあります。動機に関わる過去の出来事も後出し気味の説明ですが、当時の社会事情を知らない世代の読者を意識したのか時代背景がかなり詳細に語られておりここは社会派推理小説風です。
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