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ミステリの祭典

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探偵家族
ルンギ一家

作家 マイクル・Z・リューイン
出版日1997年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/11/11 15:15登録)
(ネタバレなし)
 アメリカの一角、風光明媚なバースの町。そこでは祖父「親爺さん」が創設した「ルンギ探偵事務所」を引き継ぐ次男アンジェロとその妻ジーナを核とした、三世代8人の家族「ルンギ一家」が探偵家族として活動していた。祖母「ママ」の懸念は、売れない画家でもある長男サルヴァトーレと、事務所の経理役である長女ロゼッタ(ローズ)がなかなか身を固めないことだ。だがそんな矢先、サルヴァトーレがガールフレンドの医学研究生マフィン・メッケルを家に連れてきた。一方で探偵事務所には、夫ジャックの些細な素行に不審を覚えた女性アイリーン・シェイラーから相談があった。さらに事務所には、美人の若いモデル、キット・ブリッジスが、なぜ自分の周囲を嗅ぎまわるのかと怒鳴り込んできたが、それはルンギ一家には身に覚えのないことだった。そして一家の活動は、やがてさる過去の事件へと連鎖していく。

 1995年のアメリカ作品。
 なんか、アルバート・サムスンものとそのスピンオフシリーズ、リーロイ・パウダーものを書き飽きた作者に向かい、編集者の方から作風を広げませんかと提案されて始めたようなシリーズ。いや、実際のところは全然知らんが、そういう雰囲気がある。なんか90年代以降の国内・若手新本格作家が中年になって、敷居の低い新たなシリーズに手を出すような感触に近いものがある。
 
 以前から興味はある作品だったが、こないだ近所でボランティア系の古書市があり、そこでHM文庫版のキレイなのが50円で売られていたから引き取ってきた。
 もともとリューインの作品は基本的にスキだし、その朴訥なユーモア味も快いと思ってはいる。翻訳もリューイン作品おなじみの田口俊樹だし、これは普通に楽しめるだろうと思って読みだしたが、うーん……。つまらなくはないが、思ったほどにもいかなかった……という印象。
 
 物語は、ルンギ事務所に持ち込まれた少なくとも最初はまったく無関係の案件が、いわゆるモジュラー警察小説風に同時並行で進行。それらの事件が絡み合うかあるいはまったく別個に終わるかはもちろんここでは書かない。
 が、主役であるルンギ一家8人(祖父母から孫2人の世代)までを、そういった複数の案件のなかでそれぞれ丁寧に語り、見せ場を設けたため、かえってお話が散漫になってしまった感想である。この辺のさじ加減は、なかなか難しい。いや、ルンギ一家の面々は、みんなそれなりには愛せるんだけどね。

 あとは作品の形質上、ある程度仕方がないのだが、悪い意味で事件の規模が広がらず、かといって地味なストーリーゆえの妙味も獲得できなかった感じ。個人的にはサルヴァトーレのガールフレンドで、ルンギ一家と仲を深めていくマフィンの意外な(?)キャラクターの叙述が一番面白かった。
  
 20世紀末の作品で、日常にパソコン文化が浸透し始める時代の物語。メールソフトを開けられないとかどうとか家族内でからかい合うような描写も、時代の推移の刹那を切り取ったような感じで、その意味では興味深かった。
 本シリーズは、長編としては早くも次で一区切りみたいなので(安永航一郎の『腕立て一代男』か)、そのうちまた読むとは思う。

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