ど田舎警察のミズ署長はNY帰りのべっぴんサ。 マゴディ町ローカル事件簿(アーリー・ハンクス署長シリーズ) |
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作家 | ジョーン・ヘス |
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出版日 | 1996年07月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/11/09 06:30登録) (ネタバレなし) アメリカ南部アーカンソー州にある、人口がわずか800人にも満たない田舎町マゴディ。「わたし」こと34歳の離婚女性でNYからこの故郷に里帰りしたアーリー・ハンクスは、以前に警備会社勤務の経験があったことから地元の警察署長に就任していた。だが着任して8ケ月、部下は青年巡査ポーリー・ブキャナンひとりというこの警察署は、いまだ大した事件も起きていない。そんな中、アーリーの母ルビー・ビーが経営する酒場「ルビー・ビーズ」の美人ウェイトレス、ジェイリー・ウィザースの夫であるDV男カールが収監中の刑務所から脱獄したという知らせが入る。さらにそれと前後して、合衆国環境保護局の役人でこの町の視察に来たロバート・ドレイクが行方不明になった。二つの事案で町が揺れる中、今度は予期せぬ殺人事件までが発生した。 1987年のアメリカ作品。アーリー・ハンクス署長シリーズの第一弾。 前々から、ス、スゲー邦題だ! まるで21世紀のラノベのようだ! と思っていたが、たまたま近所のブックオフの100円コーナーにあったので買ってきた。この作者は別のシリーズの邦訳もあるようだが、評者はコレが初読み。 で、邦題には「マゴディ町ローカル事件簿」の副題がついているが、原題は"Malice in Maggody"(マゴディ町の殺意)ときわめてシンプルなもの。少なくとも人目を引くには絶対にこの邦題の方がヨカッタ訳で、その意味では思い切った日本語タイトルをつけた当時の集英社文庫の編集者、エライ!? ちなみに原作シリーズは邦訳1冊目が出た時点ですでにアメリカでは10冊目まで刊行。現在では20冊の大台に乗ったかどうとかの、人気長寿シリーズに発展したようだ(ただし邦訳は3冊目までで打ち止め)。 中身の方は、本文の約半分ほどが主人公アーリーの一人称「わたし」で、残り半分ほどが多様な登場人物たちの三人称で綴られる、かなりフレキシブルな形式。 こういうフリーな小説作法はあまり出逢ったことがないが、ヒロインのキャラクターをタテながら、群像劇的な多数のキャラクターの動きや内面を紡いでいく上では効果を上げている。 ミステリのジャンルとしては主人公が警察署長とはいえ、ほとんど自警団みたいなものだし(アーリーの署長任命も、町会会議によって行われたらしい)、ほとんどコージー派でいい? と思えた? 実際、本国でもアガサ賞のコージー部門で賞を取ったらしい。 本文は300ページでそんなに長くもないが、情報や叙述はしっかり書き込まれ、途中で起きる殺人のフーダニット性もギリギリまで隠している、割と歯ごたえのあるもの。いわゆるコージー派ミステリにはそんなに強くない評者だが、たぶんこれはその中でも出来がいい方だとは思える。 前述のように殺人事件の謎解きを最後まで引っ張りながら、別の前半からの事件の方で、読み手の興味を維持し続けていくあたりとか、町の連中の猥雑ともいえるスラプスティックギャグで飽きさせないあたりとか、職人的な面白さは十分に感じた。 ただしフーダニットに関しては、<ある種のミステリの作り方のセオリー>ゆえ、ああ、この手でサプライズを設けようとしているのだな、と勘が働き、見事正解であった。あんまり書かない方がいいけれど、本サイトに来るようなミステリファンで、現代のフーダニット作品を読みなれた人なら大方、察しがつくかもしれない。 それでも期待以上には十分に面白かった。3~4時間かけて一晩で読了。 多少、下らなくてイヤらしいけれど、下品にはなりきらない田舎町の住人たちのシモの描写も個人的には愉快であった。 またそのうち、気が向いたらシリーズの続きも読んでみよう。 |