(2021/11/05 18:49登録)
大人になる途中で私たちが取りこぼし、忘れてしまったものはどうなるのだろう。大切に思っていた友達もいつの間にか疎遠になって。この作品は、大人になるまでに忘れてしまった友情の行く末を描いている。ある事件を機に現在は「カルト的」と批判される団体「ミライの学校」の跡地から、子供の白骨死体が見つかった。自主性を育てるため、「問答」などの教育プログラムで思考を言葉に代え、親元を離れて共同生活を送った子供たち。小学生の時、その地で開かれた夏合宿に数回参加した経験がある弁護士の法子は、死体がかつての友人、ミカのものではないかとの疑念を抱き始める。物語は小学生のミカとノリコ、そして40代の法子の視点などが交錯しながら進む。主たるテーマは「幼い頃の記憶」。白骨死体が行方知れずの孫ではないかと案じる依頼人の代わりに、法子は弁護士として「ミライの学校」の東京事務所に向かう。交渉を重ねるうち、彼女は思いも寄らない真相に辿り着く。琥珀のように美しく結晶化していた思い出とのギャップに傷つく法子。それでも再び関係を結ぼうと奔走する。「無意識の傲慢さが原因で断絶が生まれ、交わらないまま終わる小説もたくさん書いてきたが、今回は相手へもう一度誠実に手を伸ばす場面を描きたいと思った」と作者は言う。クライマックスに、心が揺さぶられる作品。
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