home

ミステリの祭典

login
探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる
戸村和&山田姉妹

作家 玩具堂
出版日2020年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/11/04 21:03登録)
(ネタバレなし)
 高校に進学した春。1年B組の「俺」こと戸村和(とむら なぎ)は自己紹介の際につい弾みで、実家の稼業が私立探偵だと口にしてしまった。実際には浮気や素行の調査といった地味な親の仕事だが、クラスの面々は勝手に和に「名探偵」の血脈と才能を期待し、妙な相談をいくつも持ち込んでくる。だがそんな時、和に<力を貸す>のは、彼の両隣の双子姉妹で、ともに美少女だが性格はまるで真逆の雨恵(あまえ)と雪音(ゆきね)コンビだった。

 えー。なんか評判がいいので読んでみた(笑)。
 帯には「<本格派>学園ミステリーラブコメ」と謳われており、最終的には青春ラブコメのためにミステリ要素が奉仕する結構だとは思うのだが、それはソレで、ウワサ通りにミステリファンも楽しめる作りになっている(と思う、とお約束で付け足しておく)。

 現状で二冊目まで出ていて最初の方しかまだ読んでいないけれど、ある程度シリーズを継続させてゆきたい雰囲気は一冊目から満々で、そのための布石もあちこちにバラまかれている。
 で、一冊目はプロローグとエピローグに挟まれ、さらに随所にインターミッション編を挟みながら3本の事件が順々に持ちこまれる連作短編形式。その上で主人公トリオの関係性も深化していくから広義の長編作品だともいえる。

 3つのミステリはそれぞれいわゆる「日常の謎」だが、謎の提示は個々に明快で、特に、ネタとしては第二話の「史上最薄殺人事件」が面白い。
<10年ほど前に刊行されて、今ではなかなか入手しにくい連作長編ミステリのクライマックス直前の巻、そのジャケットカバーだけがある。本文はない。そのジャケットカバーに書かれたあらすじ、登場人物一覧、作者のコメント、それだけから手元にない本文の、真犯人を推理する>というもの。イイねえ、こーゆー外連味、大好きだ(笑)。
 もちろん主人公トリオが「真犯人」にたどり着く道筋はきちんとロジカルなもの。まああれやこれやといろいろ思うところもあるけれど、ここはニヤニヤしながら、最後まで得点的に楽しんだ。

 作者自身はあとがきで「謎解きを志向した探偵モノ」ながら「事件の内容は(当事者以外には)たわいないもの」「ミステリというよりはクイズ・ストーリー」と謙遜し、実際に第三話の密室で刃が使われた事件の最終的な真相など古すぎるネタではあるが、それを一回半くらいヒネって料理するミステリの書き手としてのセンスは結構、好感触。完成度もさながら、全般に送り手なりのミステリそのものへの愛が感じられ、そこが心地よい作品ではある。
 
 ちなみにラブコメの方は、大雑把に言っちゃえば『超時空要塞マクロス』(TV版)のミンメイと未沙がそのまま姉妹になったようなキャラクターのコンビに、男子主人公が関わっていく感じで。
 前者の姉「雨」がきわめてマイペースなしかし観察&閃き型の天才、後者の妹「雪」の方が博識&分析型の秀才で、戸村との恋愛要素としては、この第一巻から曖昧な三角関係にせず、はっきりと(中略)の方に重点が置かれてしまっているのがなかなか今風。まあ詳しくは興味を持たれたら本編を(笑)。
 これも二巻はそのうち、読むでしょう。現状維持レベルで、楽しめることを期待。 

1レコード表示中です 書評