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ミステリの祭典

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呪われた村

作家 ジョン・ウインダム
出版日1959年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/10/23 15:35登録)
(ネタバレなし)
 その年の9月26日。ロンドンから少し離れたごく平凡な小村ミドウィッチに、何か変事が起きる。近辺に愛妻ジャネットとともに1年ほど前から暮らす「私」ことリチャード・ゲイフォードは、封鎖された村の前で足止めを食うが、実は村には謎の未確認飛行物体が着陸していた。だがそのUFOはまもなく忽然と姿を消し、やがて村では人妻も未亡人も未婚女性もふくめてとにかく健康で出産能力のある女性すべて、17歳から45歳までの全員65人が妊娠しているという、異常な事態が確認された……。

 1957年の英国作品。作者ウィンダムの第四長編。

 評者は、本作の映画化『光る眼』は新旧バージョンともにまだ未見だが、眼を光らせる少年少女の映画スチールや本編カットが印象的なので、地方の村に迷い込んだ主人公がいきなり怪しいこどもたちに出会うのが物語の発端かと思っていた。

 ところが実際の原作は二部構成に分かれて「こどもたち」が誕生するまでの第一部の方が長い。
 そもそも本作の原題は「The Midwich Cuckoos(ミドウィッチ村のカッコウ)」で、<何者か>の意志による托卵が主題だとすぐわかる。

 怖いのは村の人々(特に女性たち)が、処女懐胎の同時発生をふくめてあまりにも異常な事態に遭遇しているのに対し、意外なほどしたたかに順応してゆく物語の流れ。女性を主体に村の人々の騒乱と個々の問題への対処の経緯が積み重ねられていくあたりは、ほとんどのちのキングかクーンツのSFモダンホラーの枠内での日常描写の先取りだ。
 村人(女性)たちに何が起きているかはある程度、推察できるが、この丁寧に綴られるリアリティをじっくり味わうのが第一部の醍醐味。
(オールドミスの親友コンビの片っ方だけが更年期のせいか受胎できず、懐妊した相棒を一度はうらやむものの、生まれてきた赤ん坊に対して、その出産できなかった女性もまた母性愛をそそぐあたりとか、すんごく面白い。)

 第二部は9年の時が流れて成長した「こどもたち」と村人、そして事態を遠巻きに見守っていた英国政府との関わり合いのストーリーが主軸となるが、基本的に表層の物語はミドウィッチで進行しながらも、さらに大きく広く、世界観のビジョンは拡大していく。
 そこでは「こどもたち」の主張の客観性や相対化もふくめて多様な思弁も語られていき、いずれこの世界の迎える緊張の未来図が予見されるが、もちろんここでは詳細は書かない。
 
 (中略)の侵略ものに分類されるのが定見のような作品だが、実際に読んでみると主題(やはり特に第二部で顕著)は一種のミュータントテーマの方にもあり、その意味ではウィルマー・H・シラスの『アトムの子ら』を連想したりもした。向こうの子供たちはもうちょっと(中略)だが。

 とにかく先に読んだ『海竜めざめる』同様に、日常が非日常へと瓦解してゆく際の群像劇としての小説の達者さで稼いでいる新古典SF。
 50年代クラシックSFのど真ん中の一冊だが、実に肌に合う。

 なお『海竜』同様にまたホームズネタが登場、「銀星号」のあの名セリフが引用されるのも楽しい。ウィンダムのSF観の根っこがそこに覗くようである。 

 評点は8点でも全然いいんだけど、ちょっと言葉にしにくい思いを感じて、とりあえずこの点数で。またそのうち点数をアップするかもしれない。

 最後に翻訳者が林克己だったので、かなりビックリした。今回は早川文庫の青背で読んだが、元版のハヤカワファンタジイ版の時からこの人の翻訳だったようである。いや『コーマ』の頃に翻訳デビューした、もっと後年の世代の新しめの方だとなんとなく思っていたので。
(翻訳そのものは、すごく丁寧で読みやすい。)

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