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ミステリの祭典

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東へ走れ男と女
改題『残り香の女』

作家 笹沢左保
出版日1967年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/10/12 04:32登録)
(ネタバレなし)
 昭和40年代の初め。旅行会社「東西ガイド」の観光案内係で30歳の大和田順は、妻の洋子に不倫相手と心中され、さらに部下の横領の引責を命じられてクサっていた。そんな時、一人の中年女が大和田を60歳過ぎの富豪・結城仙太郎のもとに招待する。結城老人は10年前に4人の犯罪者仲間と、ユダヤ系の貿易商から総額30億円のダイヤモンドを強奪し、その後現在までほとぼりが冷めるのを待っていた。だが結城老人は現在、心臓を病んでおり、本来なら息子を代理人として近日中の予定の分配の場に行かせるつもりだったが、その息子が数年前に死んだため、よく似た顔の大和田に息子のふりをして分け前を受け取りに行ってほしいという。大和田は、その直後に出会った若い娘・曾我部毬江ともに、結城の犯罪者仲間またはその関係者と合流。一同はダイヤを秘匿してある場所に向かい、分配を図るが、道中で次から次へと命が失われていく。

 改題された角川文庫版『残り香の女』の方で読了。

 時代設定が古いのに違和感を覚えつつも、読んでいる間は80年代の比較的近作だと思っていた。だってなんか、赤川次郎のハチャメチャ設定の諸作が隆盛の時代に、その辺を仮想敵にして一本仕立てた、<とにかく読者を食いつかせればいい>タイプの作品かと思ったんだもの。
 で、読了後に巻末の郷原宏の解説を読んで、さらにAmazonで元版の刊行年を確認して、やはり古い初期作品(1966年)だったかと、それはそれで腑に落ちた。

 ちなみに主要登場人物のひとり、結城仙太郎じいさんの設定が「丸仙商会」というキャラクターものの玩具やプラモで儲けた玩具問屋の大物実業家。会社のモデルは怪獣ソフビやプラモで世代人には有名な「マルサン(マルザン)商店」だな。評者のような怪獣ファンにはユカイであった。

 ミステリとしてはあまりにも強引な展開を、力技でとにかく読ませるが、途中で出没する「残り香の女」の正体ほかいくつかのネタが見え見えで、まあ出来そのものはあんまりヨロシクはない。
 細部にしても、そんなにうまくいかないだろ、とか、アレコレと、こういう事態は生じないのか? などの疑問がいくつも湧く。
 それでも一応は最後まで読ませてしまうあたりは……うん、やっぱり後年の(80年代の)赤川次郎の諸作のうちの、出来の良い方みたいな感じ(笑・汗)。

 ただまあ、もともとは「東へ走れ男と女」のタイトルで(※註)恒文社発行の週刊誌「F6セブン」(はじめて聞く名前だが、当時「平凡パンチ」のライバル誌的な男性週刊誌だったらしい)に連載されたらしいので、イベントが矢継ぎ早に起きる展開はそれなりに人気を博したものとは思われる。
 B級とC級の中間の昭和エンターテインメントミステリで、ちょっとフランスミステリっぽい味付けというところ。
 ラストは劇画チックではあるが、ちょっとだけ余韻のあるクロージングで悪くはなかった。まあ笹沢ファンなら、作者の芸域の広がりも確認する意味も込めて、そこそこ楽しめる、かも。

【註】
 角川文庫の巻末の解説では郷原宏は、連載当時のタイトルは「走れ東へ男と女」だったと書いてあるが、2021年10月12日時点でたまたまヤフオクにくだんの週刊誌「F6セブン」の本作連載開始号が出品されており、そこで表紙と目次を見ると元版の書籍と同じタイトル「東へ走れ男と女」で掲載されて(連載開始して)いる。郷原の単純な勘違いか? まさか途中で題名が変わったか?

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