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ミステリの祭典

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まろうどエマノン
エマノン・シリーズ

作家 梶尾真治
出版日2002年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/10/11 04:12登録)
(ネタバレなし)
 21世紀の初め。「私」こと廣瀬直樹は、「ぼく」がまだ10歳だった1969年の夏休みのことを振り返る。父と二人暮らしだった直樹は、その父が仕事で渡航するため、ひと月だけ、九州で一人暮らししている曾祖母に預けられることになった。そこで直樹は、不老伝説の比丘尼のごとき女性エマノンに出会い、そして忘れられない体験をすることになる。

 「エマノン」シリーズの第4作目で、前作『かりそめエマノン』に続く2本目の長編。
(短めの長編というか、長めの中編というか、で、現在は「かりそめ」「まろうど」を合わせた合本が「まろうどエマノン」の書名で定本として刊行されている。)
 本サイトでは当初の元版の仕様にもとづいて、両長編を別個に登録させていただく。

 本シリーズは第一冊目『おもいでエマノン』を、元版の刊行から少し経ったタイミングで読み、当時かなりの感銘を受けた記憶がある。
 現在でも、個人的に<20世紀の日本SFの中から何か連作短編集をひとつ選べ>と言われたらこの『おもいで』と田中光二の『異星の人』のどちらかで迷い、たぶん何日かけても結論は出ないだろう。

 とかなんとかいいながら、いつのまにかシリーズの方は、スーダラなこちらなんかとは無関係に、ウン十年の間にそれなりに巻数を重ねており、コミカライズの人気までも定着していた。
 要するに、例によって、受け手の評者だけがいい加減なだけだ。

 そんなわけで気が付いたらウン十年ぶりに読む「エマノン」だが、前述のとおりに短めの長編(ほぼ中編)作品で、手にした徳間デュアル文庫版でおよそ180ページ。一時間半前後で、あっという間に読めてしまった。
 しかし内容の方は期待どおりに、いい感じに切なくそして厳しく、けれども人恋しさと郷愁を誘われる中身で、たぶん自分はこういうもの「も」エマノンシリーズに求めていたのだと思う。
 主人公の少年・直樹が1969年に九州で体験した事件の内容はもちろんここでは書かないが、個人的にはスティーヴン・キングの某長編のあのキャラクターの設定を想起させるものであった。よし、ネタバレにはなってないな。

 もちろん連作短編集『おもいで』では収録エピソードが多彩な分、そこで語られた文芸の振り幅も実に裾野が広く、そんな広がりもまた魅力であったことを思えば、今回は長めの話とはいえ結局は一編のストーリーなので、いささかモノトーン的な興趣が物足りないという贅沢感を覚えないでもない。
 それでもまあ、和製フイニィみたいな物語世界をビルディングスロマンの方向のジュブナイルに包み込んだ安定感は、十二分に読み手の心を潤してくれる。
 
 読めば絶対にいい、面白いんだよな、このシリーズ。
 だからこそ、いい、楽しめると保証されすぎているからこそ、それほど積極的に追っかける気にもならない、わがままな気分も生じてしまうのがちょっと困ったところであって。

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