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ミステリの祭典

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新学期だ、麻薬(ヤク)を捨てろ

作家 夏文彦
出版日1976年10月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2021/10/06 07:09登録)
(ネタバレなし)
 1970年代後半のある年の春。都立N高校に在籍し、新学期から3年生になる「メイ」こと水島明は、アパートを経営する未亡人の母・明子、15歳年上で雑誌ライターの兄・一郎とともに平凡な日々を送っていた。そんな年の3月26日、明は一郎から頼まれてテレビ局に赴き、26歳の美人女優・北村真穂へのメッセンジャー役を務めた。詳しいことは知らない。だがその日から明の周囲では、自宅が荒らされたり、恋人の「ケイ」こと坂口恵子が何者かに誘拐されたり、さらには爆弾による殺傷事件が起きるなど、予想もしない事件が続発する。いったい何が起きているのか?

 作者の夏文彦は1944年生まれ。多くの職業を体験したのち、広範なジャンルの文筆業に変転。黒木和雄監督の映画『竜馬暗殺』の製作にも参加している人物。

 本作のことは少年時代から珍妙なタイトルとして意識していたが、特に読む機会もないまま経年。しかし最近になってネットなどで<大昔に気になった小説タイトル>という趣旨の話題の場で俎上に挙げられている。そこで、そういえばそんな作品あったなあ、改めてどんなんだったんだろ? と興味が湧いて古書をネット注文して読んでみた。

 大筋の主題から言えば、事件の概要が見えないホワットダニット(といいながら、もこのインパクトのある題名から、麻薬がらみの事件で犯罪だろうとの見当はつく)。その大枠のなかに次々と生じる不穏な事態の連続がサスペンスを高めていく……はずの作りではあるのだが、描写が散発的なためか、あるいはキャラクター描写が弱いためかあんまり盛り上がらない。

 というか男子高校生主人公の視点で、しかも複数のヒロインにそれなりにドラマ上のウェイトがある話のはずなのに、せめて主要ヒロインの2人は中盤くらいまでにもっと魅力的にキャラを立てておいてほしかった。その流れで本当は甘々のハズのラブラブ模様も最後までイマイチである。

 後半になってちょっとしたサプライズが浮かび上がってきて、この部分はなかなか面白くなりかけた。
 が、最終的にはそこも、いい狙いをしながら、打球が高めで長打のファールに終わった感じ。なんかもったいない。
 残念ながら、全体的にこなれも悪く、たのしみどころも定まらない出来。作中のリアルでいうなら結構な事件が次々と起きているのに、司法警察の活動がほとんど書かれないのも変だった(一部の主要人物が逮捕される展開などはあったが)。
 
 良かったのは作者が妙にミステリマニアらしく、主人公・明の学友になかなか当時の時代風にそれっぽいミステリ狂らしい友人が登場したり、さらにはまた別の登場人物もそっちの趣味があり、植草の「雨降りだからミステリでも勉強しよう」をボロボロになるまで読み返してる、というキャラ設定がされていたりしたこと。
 肝心のストーリーとミステリギミックはいろいろアレなのだが、それでもこういうお遊びをのほほんとジュブナイル作品のなかでやっているマイペースぶりがなんか微笑ましい。評点はその辺も加味して。

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