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ミステリの祭典

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ド・ブランヴィリエ侯爵夫人
別題『ブランヴィリエ侯爵夫人』『淫蕩なる貴婦人の生涯―ブランヴィリエ侯爵夫人』

作家 中田耕治
出版日2004年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2021/10/04 18:30登録)
本サイトだとハードボイルド小説の翻訳家として親しまれて(まあ、まあ)いる中田耕治氏。いやこの人結構活躍は多彩で、国産ハードボイルドの実作もあるし、演劇人としての活動も重要。しかも70年代くらいからは澁澤龍彦と一緒になって暗黒耽美の方面へ...
で、本作が暗黒耽美な中田耕治の転換を告げた評伝。扱われているのは本サイトだと泣く子も黙る「火刑法廷」の真犯人(苦笑)、ブランヴィリエ侯爵夫人。ルイ14世治下のフランスの毒殺魔として、陰惨な火刑法廷と拷問の末に斬首&火刑で果てた女性である。中田氏は澁澤龍彦の書いた小論に刺激されて本書を書いたのだけども、あたかも中田氏からの澁澤へのラブレターみたいに見えるのが、何と言っても面白い。

ド・ブランヴィリエ侯爵夫人の行為は、女としての行動の一つの極限であって、私には、悪というものに肉体がどこまで耐えられるのかという命題に用に思える。

と中田氏は総括する。ほぼ半世紀前の女性シリアルキラーで、同じく特権的な大貴族というバックで殺人を繰り返したエリザベート・バートリが、冷感症のサディスティックな表現として、領民の女性を徴発して殺したのとは対照的に、ブランヴィリエ侯爵夫人は極端なニンフォマニアとして、協力者であるゴオダン・サント・クロア(カーだとゴーダン・クロス)などを魅了し、ほぼ遺産目当てで自身の親族に毒を盛る。ドメスティックな範囲に完全にブランヴィリエ侯爵夫人の関心が制限されていて、それがまったくエリザベートとは対照的な「悪」のあり方である。一番面白いのは、関係の冷え切った夫に怒って毒を盛るのだけども、思い直して解毒剤を与えるとか、毛嫌いする自分の娘に加減して毒を盛って、病身の娘を熱心に看病する...あたかも、ブランヴィリエ侯爵夫人の毒殺はひねくれた愛情表現であるかのようなのだ。

まあだから、このブランヴィリエ侯爵夫人の内面性というのは、女性性の極みみたいな部分がある。中田氏がのめり込んだのはそういう面ではないのかな。

評者が読んだ本は伝説の薔薇十字社からの刊本。いやね....実に造本が美しい。装丁は宇野亜喜良。漆黒のボール紙で表紙をつくり、赤のインクでタイトルとポイントのイラスト。開くと見返しが赤と青の雲のような文様の鮮やかさがショッキングなほど。装丁で伝説になった薔薇十字社の「美」を堪能できる造本が一番の買い。

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