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ミステリの祭典

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イタリアン・シューズ

作家 ヘニング・マンケル
出版日2019年04月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 麝香福郎
(2023/01/19 23:20登録)
本書の語り手、元外科医のフレッド・ヴェリーンは、ある事件をきっかけにスウェーデン東海岸群島の小さな島に移り住み、老いた犬猫以外話し相手といえば郵便配達人ぐらいの世捨て人のような日々を送っている。
そんな男のところへ、若き日の恋人が訪ねてくる。しかも彼女は不治の病に侵されていた。彼女に迫られ、やむなく旅に出た男に思いもしない出来事が次々に降りかかる。
タイトルが不釣り合いなほど本書は暗く思い。胸をえぐられる。死が通奏低音のように流れている。だからこそなのか。彼の人生に突然現れた実の娘、反骨精神の塊のようなルイースの赤いハイヒールや、ハンディキャップのある娘、アンドレアの水色のハイヒール、そして靴職人のマエストロから贈られてきた黒革のイタリアン・シューズが「生」の象徴のごとく、燦然と輝きを放っている。

No.1 5点 猫サーカス
(2021/09/30 18:45登録)
マンケルといえば刑事ヴァランダー・シリーズが有名だが、本書はミステリ色の薄い独立した作品となっている。物語はヴェリーンの一人称で進行するが、何より目につくのがこの男の性格だ。あまり好感の持てる人間じゃないのである。他人の荷物をあさる、手紙を勝手に読む、会話を盗み聞きするのは常習。自意識が強く、己のプライドを守るためなら平然と嘘をつく。自分に正直といえば聞こえはいいが、なにぶん感情が複雑で傷つきやすく、急に感情を噴出させたかと思えば、すぐに自己嫌悪したり、理解できない行動に出たりする。とにかく孤立しやすい気質なのだ。そんな彼のエゴの塊ともいえる孤島の住処に、37年前に捨てた恋人が現れたことで無味乾燥とした生活は一変、引きこもって空費した時間ならびに背けてきた現実を受け止めざるを得ない状況に陥っていく。だから穏やかな話では全くない。むしろ様々な悔悟や警句に満ちた悲喜こもごもの激動の旅なのである。老人が主役ではあるけれど、男女問わず幅広い年齢層に味わい深い感慨と省察をもたらしてくれるだろう。

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