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ミステリの祭典

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逆行の夏

作家 ジョン・ヴァーリイ
出版日2015年07月
平均点9.00点
書評数1人

No.1 9点 ことは
(2021/09/25 13:11登録)
初ヴァーリイだったが、これは傑作。外れ無し。きっとヴァーリイのベスト盤といっていい選択なのだろう。
基本、全作品にアイデンティティ/コミュニケーションの問題があり、(発表年は70-80年代だが)それが今でも、まったく有効であり、面白い。
SFはかじる程度しか読んでいないが、この年になってオールタイム・ベストの入れ替えを考える本に出会うとはおもわなかった。特に「残像」は、(本でなく)短編で選ぶならば、私のSFオールタイム・ベスト短編の1つとなった。
1作ずつふれてみよう。
1. 逆行の夏: ネビュラ、ローカス賞ノミネート
八世界シリーズ。解説によると本シリーズは太陽系名所案内の趣があるとのことだが、水星の灼熱の世界が描かれる。そこで、八世界特有の性/親子の問題が、日常の問題として描かれる。青春小説の味わいもあり、趣深い。
2. さようなら、ロビンソン・クルーソー: ローカス賞ノミネート
八世界シリーズ。冥王星のディズニーランド(地球環境を模した地下世界)が舞台。ここでも八世界特有のアイデンティティが物語の根幹にあり、恋愛/青春小説の味わいもある、充実した話。後半のシーンの壮麗な描写もよい。
3. バービーはなぜ殺される: ローカス賞受賞、ヒューゴー賞ノミネート
同じ容姿の人物を自由に作れる設定(八世界と共通)での、殺人事件。このような状況で、なにが”普通(アイデンティティ)”なのかを考えさせられる。
4. 残像: ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞受賞(トリプルクラウン)
目が見えない人の閉鎖コロニーを舞台にした、一種のファンタジー。コロニー内で行われている独特のコミュニケーションが強烈。ラストはある有名作を想起させるが、私はその有名作では「気持ち悪さ」「不可解さ」をまず感じたが、本作では「説明できない感動」を感じた。傑作。
5. ブルー・シャンペン: ローカス賞受賞、ヒューゴー賞ノミネート
障害をもった主人公(視点人物の対になる人物)の、特殊な道具を使用したコミュニケーションと生き様を描く。世界設定は楽しげな空間だが、ストーリーはずしりと重い。
6. PRESS ENTER ■: ヒューゴー、ネビュラ、ローカス賞受賞(トリプルクラウン)
SFホラーと分類するのが適当といっていい。これだけは、ホラーに寄せたためか、少し古びてしまっている気がする。それでも、一種のコミュニケーションを主題にしたホラーで、日本の有名作を想起させられた。トリプルクラウンは出来すぎかな。逆にこれ以外が古びていないことがすごいといえる。

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