傷のある女 私立探偵シェル・スコット |
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作家 | リチャード・S・プラザー |
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出版日 | 1963年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/09/15 07:42登録) (ネタバレなし) 1951年5月上旬。「おれ」ことロサンジェルスの30歳の私立探偵シェル・スコットは、近隣の町ガーディナのナイトクラブに来ていた。用向きは、先日、初老の依頼人から、実の娘が数か月前から失踪しているので探してほしい、という頼みに応えたからだ。いなくなった女性イザベルは、29歳の美人。実はスコットの前に別の私立探偵ウィリアム・カーターがイザベル捜索のために動いていたが、ナイトクラブのダンザー、ローレン・マンデルが何かイザベルの情報を知っていると情報を掴んだのち、探偵のカーター自身も音信不通になっていた。スコットはローレン、またはカーターとの接触を求めてナイトクラブ「ペリカンクラブ」に乗り込むが。 1951年のアメリカ作品。 シェル・スコットシリーズの第四長編。 今回の物語の舞台は序盤のガーディナを経てラスヴェガスに飛ぶが、そこで事件に巻き込まれる形で、スコットの周囲に犠牲が出てしまう。 スコットはマイク・ハマーばりの復讐の激情に駆られ、何かの目的から彼に妨害や攻撃をしかけてくる荒事師たちに反撃。 理性では殺す必要がないと分かっている状況でも、怒りと戦闘の本能のままに暴れまくる。 シリーズ前作『人みな銃をもつ』も、後年のR・B・パーカーのスペンサーの先駆のような趣があったが、今回はさらにそれっぽい。 ラスヴェガスの市街が五月の祭事「ヘルドラド」の人出で賑わうなか、往来で悪党に自由を奪われ、殺されるばかりの窮地に陥ったスコット。そのピンチの描写はなかなかのテンションで、さらにメインゲストヒロインのうちのひとりをからめてのその逆境からの脱出ぶりも、印象的だ。 そういうわけで今回も活劇&バイオレンス展開主体かな、と思っていたら、残りの数十ページで意表をついて、マトモなミステリ(ハードボイルド推理小説)の方向に転調。 しかも(中略)トリックがかなり意識的に設けられており、なかなかイカす長編ミステリの正体をここで現した。 劇中には3人のメインゲストヒロインが登場するが、その中でいちばんもうけ訳をもらった22歳の離婚美女コリーン・ショーンとスコットのからみがなかなか。クライマックス、謎解きに向かうスコットに追いすがる「行かないで」パターンの挙動なんか、照れ笑いしつつもなんかイイ。 仕掛けられたミステリのギミックが効果を上げた作品なんだけど、一方でもうちょっとオモシロクできるよなあ、という軽い不満もある。 それにポケミス164ページ、スコットが内心で「事件の全貌が見えた!」的に直感するシーンもそこで盛り上げるだけ盛り上げておいて、あとから見るとややチョンボ。そういうわけで、この評点で。 いや、完成度というか練りの足りなさに妥協すれば、十分に面白かったけどね。真相を小出しにする演出は、ああ、そういうことかと、ワクワクの気分ではあった。 ちなみに「傷のある女」とは、捜査対象のイザベルの(中略)に、子供の頃のヤケドで4インチほどの傷があるということ。 まあ、あなたが大体お察しの方向のネタの設定だ。 |