home

ミステリの祭典

login
レヴィンソン&リンク劇場 皮肉な終幕

作家 リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク
出版日2021年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/12/28 04:20登録)
(ネタバレなし)
 『刑事コロンボ』『ジェシカおばさんの事件簿』などの原作(文芸&キャラクター設定の製作)で知られるリンク&レヴィンソン、コンビが1954~1962年に各雑誌(ミステリ専門誌&一般誌)に発表した初期短編(ショートショートに近いものもある)10本を日本オリジナルでまとめて編集した、個人短編集。
 
 評者は大昔、古本屋で日本語版「ヒッチコックマガジン」を買いあさっていると、時たまこのコンビの短編が載っている号に遭遇。その時点ですでに「コロンボ」日本語版の本放送をNHKの放映枠で楽しんでいたので「あれ?」と思い、かの番組のメインライターコンビは小説家としても活動していたのか、と軽く驚いた経験がある。

 そういった60年代の「日本語版AHMM」に掲載された諸作(つまり今回、この本に収録されたものといくつかカブる)の作風は記憶するかぎり、日本語版ヒッチコックマガジンの主力作家だったヘンリー・スレッサーの傾向に近いものだったと思う。
(つまり、のちの「コロンボ」に通じるような、倒叙形式の(広義の)パズラーの原型的なものとは大きく異なる。)

 実際、本書の冒頭の短編、悪妻に悩まされる初老の郵便配達員を主人公にした『口笛吹いて働こう』からして、モロ、そんなスレッサー調の一編。
 作者名を隠されて読み終えたのち「これ、スレッサー(またはO・H・レスリーほか)の作品だよ」と言われたら、絶対にダマされてしまうだろう。つまりはそんなティストだ。

 そして残る9本の中には、そんなスレッサー風の、いわゆる鋭い気の利いたオチ、風の短編がやはりいくつかあるが、同時にさすがに何本も書いているうちに違うこともしたくなってきたのか、あるいは雑誌の編集部の注文に合わせたのか、作品の幅も広がっていく。
 結構、ストレートな(中略)ストーリーがあるのにはちょっとビックリした。
 広義のミステリの大枠から外れるものではないが、やや人間ドラマっぽい作りのものもあったりする。
 「コロンボ」ファンに興味深いのは、解説で小山正が書いているとおり、8本目の『愛しい死体』で、これがネタ的に『殺人処方箋』の原型的な短編。どこがどうオリジンなのかは、ドラマを観ている人なら読めばすぐわかると思う(こう書いても、オチやラストのネタバレにはなってないと思うが)。

 病院の待合室で時間をつぶさなければならない状況だったので、自宅から持参して、行き帰りのバスや電車の車中もふくめて、数時間でサクサク読み終えた。
 期待通りに楽しい一冊であったが、一本、邦題でネタバレしかかっているようなものがあるのは、ちょっと……かもしれない(もちろん、該当の作品がどの短編かはここでは言わないが)。
 まだこの路線の短編集が日本オリジナルで作れるのなら、もう1~2冊出してほしい。

1レコード表示中です 書評