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ミステリの祭典

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深夜放送のハプニング

作家 眉村卓
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/09/01 04:46登録)
(ネタバレなし)
 1977年初版の秋元文庫版(の重版)で読了。

 イラストレーターで深夜放送のDJを兼業する青年・島浦紀久夫を主人公とする全3本の連作短編『深夜放送のハプニング』と、単品の中編ジュブナイルで学園SFホラー(?)の『闇からのゆうわく』、その、のべ4編を収録している。

 表題作は、秋元文庫に入っているから純然たるジュブナイルかと思っていたが、読了後に眉村卓作品の研究サイトを覗くと、実は一般向け作品だったらしい。

 くだんの『深夜放送の~』は 
「過去のないリクエスト・カード」(記憶喪失のリスナーの素性の探索)
「夜はだれのもの!?」(悪趣味な冗談企画から始まる騒動)
「呪いの面」(ミクロネシアの呪いの面の奇談?)
 という3つの連作エピソードだが、本の表紙周りに「SF」と銘打たれているにも関わらず、実は存外にそっちの成分は希薄である。

 特に「過去のない~」は、なんと新本格の「日常の謎」系みたいなミステリで、そのぶっとんだ真相にかなり驚いた(もちろん、60~70年代半ばに、すでにこういう作品が、それもSFプロパーの作家によってという意味合いで驚愕した面も強いが)。

「夜はだれのもの!?」は、さらにもうちょっと普通のミステリっぽいが、オチのつけ方など、どことなく後年の幻影城世代の作家の諸作なども想起させる。

 最後の「呪いの面」で、ようやくスーパーナチュラル要素が強くなるが、怪異の真相をわざと(中略)なラストには、独特の余韻がある。

 いずれも期待しないで読んだ分、それでもうけた感じがあるのは事実だが、予想以上に楽しめた。

 後半の単品中編『闇からのゆうわく』は、平凡な中学校に、魔女のような、冷たい美貌の若手女教師が転任してくるところから開幕する学園ホラー青春SF。平井和正の初期短編に通じる危なさと蠱惑さがあるジュブナイルだが、緊張感に満ちた展開、情感のあるクロージングと、なんか実に心の琴線に触れた。
 21世紀のいま、新作として、そのままこの内容の作品がリリースされたら、小説、映画、コミック、どのメディアででも、古い感じは拭えないだろうが、一方で、こういう傾向の作品のときめきを忘れたくないと思わせる、そんな普遍的な魅力がある。十代の頃に読んでいたら、確実に(中略)。

 半ば成り行きで入手したようなところもある一冊だが、望外なほどに予期せぬ感興に触れられた。
 また何か、似たような傾向の眉村作品に出会ってみたいと願う。

【補足】
 1982年に同じ出版社の「秋元ジュニア文庫」(秋元文庫ではない)から同題の短編集が出ているらしいが、そちらは元版(秋元文庫)の方に併録されている『闇からのゆうわく』を割愛しているそうなので、注意のこと。

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