突然、暴力で 私立探偵ダニー・ボイド |
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作家 | カーター・ブラウン |
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出版日 | 1963年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/08/29 05:58登録) (ネタバレなし) 「おれ」ことダニー・ボイドは、NYの私立探偵事務所「ボイド・エンタープライズ」の代表兼唯一の所員だ。ボイドは、元・麻薬ギャングの大ボス、コンラッド・レイクマンの依頼で、家出した彼の娘スージーを捜す。ボイドはスージーが借りたアパートを発見し、彼女を自宅に連れ帰ろうとしたが、そのときクロゼットの中から若者の死体が転げ出た。それはスージーとともに駆け落ちしたが、いつの間にかいなくなっていたという、コンラッドの運転手ジョイ・ヘナードの射殺死体だった。当惑するボイドの前に、見知らぬ若い男女が登場。二人組の片方である男は、ボイドを殴って失神させ、女とともに、スージーをどこかに連れ去った。 1959年の版権クレジット。ダニー・ボイドシリーズの第二作。 何が起きているのか分からないままに、物語が進行。冒頭の被害者ヘナードの遺留品から、さらに別の方向に事件のすそ野が広がっていく。 終盤に明かされる事件の全貌は、もともと、ちょっとややこしい事態だった、そこにさらに、妙な角度から切り込んでストーリーを語り始めたため、作品全体に錯綜感が生じていたのだったと判明する。 (なるべくネタバレにならないように書いているつもりだ。) この、それなりに凝った作劇の趣向は、結構面白い。 真犯人は、なんとなくこの人物がクサイなと勘では察せられるものの、殺人の生じた動機というか状況は、かなりぶっとんだものであった。 なんか類例があったような気もしないでもないが、いずれにしろずいぶんとオフビートなものなのは間違いないだろう。 しかし今回も前作同様、主人公のボイドはよく殴られる、そして殴り返す(例によって女にも)。ワイルドさを基準にすれば、カーター・ブラウンの諸作中でも、このボイドシリーズの初期編がいちばん凄かったかもしれない。 今回、ボイドシリーズのレギュラーヒロインとなる、赤毛の美人秘書フラン・ジョーダンが初登場。もともとは別の職場にいたが、転職してボイドの事務所に来る。 (マイケル・シェーンシリーズの二代目ヒロイン、ルーシイ・ハミルトンみたいなパターンである。) フランはボイドとの初対面から、自分は高級な酒と食事が好きなお金がかかる女だと自称。まだ22歳だが、けっこう男性経験も豊富なようで、ボイドとの関係の深化も予想以上に……(中略)。まあ興味のある人は実作を読んでくれ。 ちなみに本シリーズの邦訳はかなり順番が後先になったため、この第二作が日本語になる前にボイド主役編もそれなりの冊数がすでにポケミスで出ていた。 そのため本書の巻末では、白岩義賢なる御仁(webで検索すると、1934年の生まれで中央公論社の編集者だった人らしい)が、既訳分のシリーズを丁寧に読み込み、ボイドに関する、かなりしっかりしたシャーロッキアン的な論評をまとめている。 全国のボイドファン(21世紀のいま、どのくらいいるか知らないが)は、ちゃんと目を通しておいた方がイイ一文だね。 評点としては、面白いことは面白かったけれど、送り手の方が読者を一方的に引き回すような種類の感触も割とあったので、このくらいで。 カーター・ブラウンファンなら、いつかどっかのタイミングで読んでおいた方がいい一冊だとは思う。 |