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ミステリの祭典

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異人たちとの夏

作家 山田太一
出版日1987年12月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/08/18 06:57登録)
(ネタバレなし)
「私」こと47歳のテレビシナリオライター・原田英雄は、妻と離婚。息子とも別れてマンションで一人暮らしを始めた。やがて英雄は同じマンションの住人「ケイ」ことOLの藤野桂と出会い、恋人関係になる。そんなある日、英雄は浅草で、自分が14歳の時に死別した父親にそっくりな人物に対面。まもなく英雄は浅草に来れば、当時の姿のまま現代に現出している両親に出会えると、自覚する。だが一方で、英雄の体にはとある変異が……。

 第一回山本周五郎賞・受賞作品。
 評者は山田太一の脚本作品は『岸辺のアルバム』も『早春スケッチブック』も『ふぞろいの林檎たち』も未見。一方で『獅子の時代』『高原へいらっしゃい』『男たちの旅路』さらには『真夜中のあいさつ』そして『終りに見た街』あたりは大好き……と、結構ランダムな付き合い。マニアから見れば鼻で笑われるような浅さだが(苦笑)。
 そういえば本作を映画化した大林監督の作品も、まだ観てなかった。

 そこで何かの機会から「そうだった、これ(本作)は山田太一作品で、しかもあくまでオリジナル小説として執筆されたんだっけ」と改めて意識したのがおよそ1~2ヶ月前。
 webで物語のサワリだけ覗いてみると面白そうなので、古書(新潮文庫版)を注文して読んでみる。
 220ページほどの短い紙幅の物語だが、着想はたぶん(中略)という大ネタが起点だったのだろうとは、推察できる。
 ただし結局はソレだけじゃ、出来たものは、海のものとも山のものともつかぬものになるだろうが、そこは書き手の筆力で読者を惹きこんだ感触の一冊である。とにかく中年男の甘ったれになることだけは警戒しながら、それでもかなり胸襟を開いた情感を感じさせてくる文章がいい。

 トータルの感想を具体的に言うと、ネタバレになってしまうような気配もある作品なので詳述は控えるが、主人公が現実と異界のボーダーラインのなかで亡き両親との邂逅を続けるくだりは、墨汁を垂らして薄墨色にしたジャック・フイニィの作品のような歯ごたえ。なかなか独特な味わいで、ここだけでも本作の価値は相応にある。それで……(中略)。
 前述のように後味がいいとも悪いとも言わない方がいい作品だが、しみじみと余韻があるクロージングだということぐらいは語ってもいいだろう。

 まあシナリオ作家としての作者には、こちらも中途半端な形ながらそれなりに長い間(?)付き合い、自分なりに相応に高めの評価はしているつもり(?)なので、その期待値からすれば順当、という感じではあった。
 とにかく遅ればせながら、読んでおいて良かった、とは思う。
 そのうち、映画の方も観てみよう。

 ちなみに新潮文庫版は、帯のキャッチで、カンのいい人は(中略)なので前もって注意しておく。

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