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ミステリの祭典

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黄泉がえり遊戯
改題・大幅加筆修正『黄泉がえりの町で、君と』

作家 雪富千晶紀
出版日2015年12月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2021/08/16 19:04登録)
(ネタバレなし)
 北関東地方の一角・経良(へら)町。そこでは、幅広い年齢層の有志などによる町おこし運動が進んでいた。そんなさなか、葬儀屋「古谷葬祭」の二代目社長である28歳の古谷遼一は、自社が葬儀を請け負った死者、62歳の正岡勇二が突然よみがえり、他の死体を貪り食うという悪夢のような事態に直面する。だが事件はそれだけではなく、さらに進展。かたや遼一の妹で女子高校生の佐紀は、さる秘密を抱えていてその事実に悩んでいた。学校でも悪意ある級友の嫌がらせにあい、孤立する佐紀。だがやがて彼女は、一人の少年・颯太に出会い、ともに行動を始めるが。

 改題・加筆修正された文庫版『黄泉がえりの町で、君と』で読了。
 文庫版の解説担当の三橋暁によると、改稿版は大幅な修正がなされて完成度が高くなっているそうだから、単品で読むならこちらの方がいいだろう。
 文庫版の帯には「平凡な町を襲う災禍の、驚きの結末とは!?」とのキャッチが用意さされており、サプライズを伴うホラー・ミステリあるいはミステリ要素のあるホラーといった形質を期待して手に取った。
(ちなみに帯には「映像化絶対不可能! 驚異の青春ホラー!」との惹句もあり、これは何らかの形で××トリックの類を使っているのかとも予見したが、実際には(中略)。予算と手間はかかるだろうが、映像化もできないこともない。というより、演出と脚本次第では、むしろ映画に向いてるような内容であった。なお「青春ホラー」の謳い文句のほうについては、特に不満はない。)

 大ネタの着想(一種のホワットダニット、ゾンビ化する死者のその意味)そのものはなかなか面白かったが、真相が明かされるあたりはちょっと唐突(一応、主人公視点からの簡単な考察はあるが)。そういう発想って、作中のリアルでそうそう出るもんかな、という感じだった。
 後半は小中規模のどんでん返しが豊富、サスペンスも適度でよい。話のまとめ方もこういう作品として納得できるものだが、作中で叙述されたまま、結局、山場のあとにあれはどうなったのだ? というポイントがいくつか放っておかれてしまっているような部分もある。
 あと、リアリティで言うなら、(中略)のかたずけ方は、ちょっと雑だろうな。

 改稿版を読んでなお、細部のツメの甘さが気になるところはあるが、一方で前述の作品全体に関わる事件の秘密とか、エピローグの丁寧な叙述とか、それなりの得点要素も少なくはない。そのうちこの作者は、また著作を何か読んでみたい。評点はこのくらいで。

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