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ミステリの祭典

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刺青物語

作家 高木彬光
出版日1983年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2021/08/24 21:09登録)
 雑誌「野生時代」昭和五十二(1977)年十一月~昭和五十四(1979)年一月に掲載された、名人刺青師(ほりものし)二代目彫宇之語る歴史秘話を軸に、初期の好篇「ぎやまん姫」他を付け加えて贈る小品集。収録作は年代順に ぎやまん姫(消え行く女体)/刺青師の性―弁天娘女男殺絵(べんてんむすめめおのころしえ)/観音江戸を救う―新門於芳御閨譚(しんもんおよしおねやばなし)/毒婦の皮―高橋於伝刺青譚(たかはしおでんほりものばなし)/毒婦の鑑―人穴於糸仇討譚(ひとあなおいとあだうちばなし)/花男日本を救う―弁天於雪出世譚(べんてんおゆきしゅっせばなし)。各題を見れば分かるように、ほぼ歌舞伎調で統一した刺青綺譚集である。
 この時期他に執筆されたのは『巨城の破片・万華の断片』や、伝記小説『大予言者の秘密』など。著者のこの手の作品には、オール青のハードカバー長編推理小説全集①で代表作『刺青殺人事件』とカップリングされた『羽衣の女』があるが、そちらにも手を出したくなるようないい本で、ストーリーテラーとしての高木の持ち味が存分に発揮されている(なお『羽衣~』は、二代目彫宇之の代表作といわれる天女像を背中一面に施した羽衣お小夜=鈴木富士子の生涯を描いたノンフィクションらしい。「いれずみ無残」のタイトルで昭和四十年代に映画化もされたそうだ)。
 さて本編。維新まぎわ浅草一帯を縄ばりにしていた火消「を組」の鳶頭・新門辰五郎が、将軍慶喜に娘お芳を輿入れさせたぐらいは知っていたが、元勲黒田清隆が秘かに高橋お伝の刺青を入手していたとか、大西郷の実弟従道が背中一面に花和尚魯智深大蛇退治の刺青を彫っていたとかは初耳、これを岡本綺堂『三浦老人昔話』張りの語り口でやるので実に興味深い。題材が題材なので犯罪実録風のものもあり、ことに「毒婦の鑑~」における外連たっぷりの毒々しさは歌舞伎の悪婆めいている。
 同系列の「刺青師の性~」は〈作者後記〉にあるように、雑誌「別冊小説宝石」昭和四十八(1973)年六月号に、以前評した小泉喜美子の短篇「青い錦絵」と競作する形で同時掲載されたもの。鮮やかさで前者に劣る分、立板に水式の名調子や「四谷怪談」をミックスさせてさすが第一人者といった所を見せている。女性作家と妙な繋がりがあるのもフェミニンな高木らしい。
 トリの「ぎやまん姫」は山田風太郎「蝋人」風の怪奇譚。調べると発表年も一年弱と近いので、風太郎のそれに刺激を受けて執筆したものだろうか。ガラス窓の一枚もない奇妙なお屋敷・殿村子爵家に奉公に上がった女中スミの回想を、巧みに刺青と絡ませて綴った完成度の高いアンソロジー級作品である。本書の中ではこれがピカイチ。
 以上全六篇。200P余りと薄手だが、それに比して密度はかなり高く6.5点級。

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