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ミステリの祭典

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ナポレオン・ソロ③/なぞの円盤
0011 ナポレオン・ソロ

作家 ジョン・オーラム
出版日不明
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2021/08/10 05:20登録)
(ネタバレなし)
 コペンハーゲン。デンマーク人で学生時代にラグビー選手だった商社マン、マイク・スタンニングは、行きずりの美女ノラ・ブランドと熱い一夜を過ごす。だが翌朝、ノラは姿を消しており、彼女は小さな包みを彼に託していた。その後、ノラの指示で向かった先で、不敵な中年男「ガーブリッジ少佐」がマイクを待ち構えていた。少佐はすでにノラはこの世にいないと告げ、マイクに彼女から預かった包みを渡すよう要求する。だがマイクは必死に窮地を脱出し、ノラから託された包みの中のもうひとつの指示のままに、謎の組織「アンクル」に連絡を取るが。

 1966年のクレジット。
 言うまでもなく「ナポレオン・ソロ」ノベライズシリーズの一冊だが、ベースになったテレビエピソードがあったかどうかは現状で不明。マトモに調べれば、なんかわかるかもしれない。それなりのストーリーの容量はあるので、小説オリジナルの物語かもしれない。

 あらすじの通り、事件の序盤の部分を主人公コンビのソロ&イリヤなどからではなく、殉職するまで奮闘したアンクルの女性諜報員ノラ(偽名かもしれない)、さらに彼女とたまたま接触した一般人のマイク青年の叙述から始めているのがちょっと変わった趣向。

 ノラの尽力のおかげで、陰謀団スラッシュがデンマークの田舎でひそかに建造している秘密機動兵器(音を立てずに高速で飛ぶ戦闘円盤)の存在がアンクルに知れて、途中からはおなじみの主人公コンビが個別に順々に、デンマークに出張する。

 デンマークのアンクル支部の仲介で、現地の土地勘のある大戦中の元レジスタンスが協力。この辺は王道の展開。
 さらに主人公コンビに随伴したアンクル本部の女性エージェントが、スラッシュ側の拷問好きのキチガイ女に殺されるかかるなど、西村寿行の中期以降の作品みたいな趣向もあり、通俗スパイ活劇としてはそれなりに見せ場も用意してある。

 ソロたちが敵の陰謀を挫くまでの大筋は良くも悪くもスタンダードだが、それでも作者は下っ端のスラッシュ戦闘員の奮闘エピソードを盛り込み、前線で戦う兵士の苦労そのものには正義も悪も陣営は関係ないのだ、という感じの共感さえ、ソロにさせかけている。この辺はとにもかくにも小説としての厚みを出そうという気配が覗けて、ちょっと感心。

 あと、コペンハーゲンのアンクル支部の女性局員ギュッテの文芸設定なんかも、テレビや映画では絶対に描かれていないであろう種類のものが用意されており、この辺も評価のポイントか。
 
 とにかくプロットそのものは紙芝居みたいなんだけど、細部の随所に小説版独自のプラスアルファを盛り込もうという書き手の気概は見やれる。
 トータルの評点としてはこんなものだが、決してキライではないし、こういうものとしてツマらないわけでもない。

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