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ミステリの祭典

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しなやかに歩く魔女
私立探偵ダニー・ボイド

作家 カーター・ブラウン
出版日1962年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2021/08/09 08:01登録)
(ネタバレなし)
 ニューヨーク。「おれ」ことダニー・ボイドは私立探偵事務所「クルーガー探偵社」で「探偵長」の役職を務めていたが、2週間前に退職。現在は自分の探偵事務所「ボイド興業」を開設したばかりだった。そこに最初の客として、ブルーネットの美女アデル・ブレアが来訪。アデルの依頼は、彼女の年上の夫で斯界では高名なシェークスピア俳優ニコラス(ニッキー)を、何らかの手段で精神病院に強制収容させて欲しいというものだった。奇妙な依頼を辞退仕掛けるボイドだが、アデルの提示した高額の依頼料に魅力を感じた彼はこの件を引き受ける。ニコラスの前妻の息子で30歳の青年オーブリの協力を得て、彼の友人を装ったボイドは目標のニコラスに接触。言葉巧みに「プロの精神病医すら欺くような、本物らしい狂人の真似ができるか」と相手を挑発して、まんまと彼を精神病院に収容させるが……。

 1959年のクレジット。
 カーター・ブラウンのたぶん二番目にメジャーなレギュラー主人公、私立探偵ダニー・ボイドものの第一弾。
 たしかこれも大昔に読んでるハズだと思ったが、最後まで読了してもまったくカケラも読んだ記憶が甦らない。事務所を開業したばかりのボイドの描写も記憶がないし、のちにレギュラーヒロインとなる美人秘書フラン・ジョーダンがまだ出てきていないことも覚えていない。どうやら勘違いで完全に初読のようである。

 ちなみに小林信彦の「地獄の読書録」ではかなり高い評価。カーター・ブラウンには凡作も秀作もあると認めた上で、これはその後者の方と判定。☆5つで満点で、☆4つ。それってたとえば同じ小林信彦のレビュー基準でいえば、ロス・マクの『ギャルトン事件』あたりなどと同等の高評だ(!)。

 実際、カネのために、どうもヤバげな案件に一口乗る今回のボイドの言動は、のちのシリーズでの軽妙さとはどこか違う悪徳探偵っぷりが濃い。きわどさでいうと、チェイスの『ブランディッシュ』あたりの空気に似たものさえ感じさせる。
 短い紙幅ながら起伏の多い展開で、事態は当然のように殺人劇にまでいたるが、事件の構造はそれなりに錯綜……というか、読み手のある種の予断の裏をかくような作りが、なかなか……であった。もちろん詳しくは書けないが。
(ただし真相の説明については、やや舌っ足らずな感じもあり、そこは減点。)

 前述のように、このときのボイドはかなりまだコワモテで、荒事師とやりあうのはもちろん、自分の顔をひっぱたいた女の頬を叩き返すことなどにも躊躇はない。それだけに他の諸作とはワンランク違う凄味があり、仮想敵というかライバル的な先駆ヒーローは、やはりズバリ、初期のマイク・ハマーだったのであろう。

 こっちの方向で以降も突き進むブラウン(というかダニー・ボイド)ももうちょっと見たかった気もするが、たぶんそれでは、現実ほどの人気は、欧米でも日本でも得られなかったろうなあ。
 いずれにしろ、初読になるか再読になるかわからないけれど、この直後のシリーズ諸作の中でフラン・ジョーダンが出てくるタイトルに出逢うのがちょっと楽しみになった。
 なんか彼女の登場を機にボイドが軟派になってしまうような気配がするようなところもあるが、それは実際のところ、実物を読んでみなければわからないネ。

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