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ミステリの祭典

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いだ天百里
旧題『山刃夜叉』

作家 山田風太郎
出版日1967年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点
(2021/08/03 16:22登録)
 この著者には珍しく山窩を主人公に据えた、プレ忍法帖とでも言うべき連作短篇集。昭和三十(1955)年六月から昭和三十二(1957)年六月にかけて、雑誌「小説倶楽部」を中心に掲載された五つの中短篇から成っており、慶長十二(1607)年から翌十三年にかけて、夫婦の契りを交わした武田家の遺臣・関半兵衛と自由闊達な山の姫君・お狩を中心にした撫衆(なでし)たちを主人公に、すでに天下を手中にし着々と幕藩体制の基盤を固める徳川方と、紀州九度山の草蘆にわだかまる豊臣方の大軍師・月叟真田左衛門佐との暗闘を描く作品である。
 この頃は長篇『十三角関係』ほか茨木歓喜ものの諸作や、『女人国伝奇』、『妖異金瓶梅』後半部分、『青春探偵団』、及び『妖説忠臣蔵』などの連作集を執筆していた時期で、『甲賀忍法帖』を始めとする風太郎忍法シリーズも開幕寸前。収録作は年代順の並びもほぼ同じで、死の谷の巻(鳴け鳴け雲雀)/狂天狗の巻(飛び散る天狗)/六連銭の巻(どろん六連銭)/地雷火の巻(地雷火百里)/地獄蔵の巻(お江戸山脈)となる。どこから資料を漁ってきたのか知らないが、例によって綿密至極。ポンポン飛び出す撫衆言葉を彩りに生き生きとした講談調の美文で、彼らを取り込もうとする里者や大道芸人たちの悪意や陰謀と、飽くまでそれを撥ねつけ己の正義に徹する山嶽の子らの姿が躍動的に活写されてゆく。
 ゲストは大久保長安、滝川一益、猿飛佐助、三好清海入道、穴山小助、小西行長の娘・呉葉姫、出雲の阿国、名古屋山三郎など。三・四話の「六連銭~」「地雷火~」にはミステリ的趣向が用意されているが、これが人里中心の道中記となってくると、当初の新鮮味やテンポの良さが薄れてくるのは是非もない。第二話「狂天狗~」までは7~8点クラスの手応えだったのだが、それ以降はややパワーダウンしてトータル6点。とは言え変幻自在の忍法抜きですら、高難度の素材を格調高く読ませるのは山風ならではか。

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