home

ミステリの祭典

login
クレシェンド

作家 竹本健治
出版日2003年02月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点
(2021/07/28 15:24登録)
 新進気鋭のコンピュータ会社でソフト開発に携わる矢木沢孝司は、ある日を境に百鬼夜行の幻覚に苦しむようになる。どこからともなく魑魅魍魎の群れが現れ、彼の周囲すべてを埋め尽くしてしまうのだ。しかも、その幻覚は回を重ねるごとに進化し、威力を増し、巨大な恐怖の濁流となって矢木沢を翻弄する。
 彼は知人の姪・真壁岬と精神医学者・天野の助けを借りて原因を究明しようとするが、膨れ上がる幻覚は矢木沢自身の思考、存在を超え、何故か古事記に酷似したものになっていくのだった。
 どうしても思い出せない母親の顔、震動を伴い聞こえてくる言葉「吾に辱見せつ(あれにはぢみせつ)」そして「霊有れ(ヒアレ)」――。鬼才・竹本健治が描く、日本人のDNAに直接迫る言霊から生まれる恐怖と、その受信回路のメカニズムとは?
 「野生時代」の後身誌「KADOKAWAミステリ」に、平成13(2001)年1月号~平成14(2002)年7月号まで隔月連載されていた、著者の第23長篇(マンガ『入神』含む)。『腐蝕の惑星』の続篇SF『連星ルギイの胆汁』の次に来る作品で、井沢元彦ほかの "原・日本人論" をバックに暴走する民族恐怖幻想を、諸星大二郎『妖怪ハンター』風のスペクタクル長篇として纏めたもの。ただし壮大さや意欲的描写の割には不完全燃焼気味で、結論を確信犯的に先送りしているようにも見え、刊行時の〈究極の恐怖小説〉なる煽り文句もやや空回り。ルース・ベネディクト『菊と刀』における "恥の文化" の源流を、黄泉国訪問でのイザナミ神のセリフに結び付けた所がストーリーの肝だろうか。テーマの割には相応に読ませるが、小笠原パートでの嘉門老人の処理など未消化の伏線が多すぎる。
 ヒロイン関連で触れられる『眠れる森の惨劇』の後日談は〈やっぱりそうなっちゃったかあ〉という感じ。前作から約一年後という設定だが、果たして彼女は今後どうなるのか。メンタル面では一区切り付いた訳だが、好感の持てるキャラクターだけに大事に扱って欲しい。

1レコード表示中です 書評